全国一斉での休校の要請が出たことに対して批判の声が上がっている。私は現状は非常事態なので、唐突に見えるものの今回の要請は正しいと思っている。「準備ができていない」「もう少し根回ししてから」という声があるが、今は、平時の対応は通用しない状況だ。有事の対応を考える必要がある。
しかし、「もし、このままでは、いったいどのような危機を迎えるか」という説明が全くなされていない。それが、不協和音を生み出しているのだと思う。クルーズ船、チャーター便帰国者を除いた国内の感染者は、一般的には「171名に過ぎない」(27日正午現在、厚生労働省発表データ)という印象を与える数字だ。
したがって、多くの人にとっては、この数字と今回の要請には大きな乖離があると感じても不思議ではない。漏れ伝わってくる話からは、この数字は実態とあまりにも違いがあるのではないか?
国のトップの判断は間違っていないと思うが、危機が重大なレベルであることはほとんど伝わっていない。北海道では知事が前面に立って説明し、週末の外出を避けるように緊急事態宣言をしている。このままでは、大流行につながるという危機意識が強く表れていた。広い面積に66名という陽性者数だが、これ以上の拡大は医療供給体制の限度を超えてしまう。4月中旬に開催される予定だった日本外科学会も8月中旬に延期するとの連絡をいただいた。これが医療現場の実感だと思う。
小さな子供さんや小学校低学年時を抱えている共働きやシングルペアレント家庭の場合の対応、経済的な影響などの問題を指摘しているメディアなどもいるが、もし、1週間遅れれば、感染がどれだけ拡大するリスクがあるのかを想定していない無責任な姿勢だ。今は、非常事態であり、命や健康を守るための対応が最優先されるべきだ。
「経済的支援体制ができないままにこんな要請をしていいのか」という声などに対しては、手遅れになってパンデミックになった場合に君たちが責任を取るのかを問いたい。何の治療法もないがん患者さんに対して、「リスクがある」と言いつつ、それが「死を待て」と言っているに等しいことを理解していない人たちとダブって見えてしまう。
総理は責任を取ると言っていたが、何故、このような要請をしたのかが伝わらない限り、混乱が広がるだけだ。今日、記者会見されるそうだが、是非、国民を納得させる説明をして欲しいと願っている。
私の予感では、来週ウイルスのPCR検査が保険診療化されれば、一気に検査数が増え、そして、感染者数が増えるので、それを見越して先手を打ったような気がする。この予感が外れる方がいいが、果たしてどうなるのか?
編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2020年2月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。