トイレットペーパーや食料品の買い占めが進んで、危機意識が浸透してきたのかと思いきや、暖かかった昨日は、公園でのんびりと集う人やジョギングをする人たちの姿が目立った。学校は休みだが、塾では普通に授業をしている。いや、朝から授業をしている塾もあった。閉鎖された空間と人口密度の高さは、クルーズ船以上だ。また、学童保育も、たくさんの児童が詰めかけている。
なんだか不思議で矛盾した姿だ。危機意識が高いのか、低いのか?そして、依然として、咳をしているのにマスクをしていない人がいる。マスクは不要だという声があるが、それは、症状のある人がマスクをしているという性善説に基づくものだ。机上の空論ではなく、現実を見た考えが必要だ。
そして、5万人規模の中国のデータでは、致死率が3.8%と報告されていた。やはり、要注意だ。一度に多数の患者さんが押し掛けた中国の医療供給事情を考慮して、この数字を眺めたとしても、インフルエンザと同レベルというのは過小評価だ。そして、中国の例で注目すべきは、80歳以上の致死率が約22%という点だ。80歳以上の方がこの感染症に罹患すると、4〜5人に一人が命を落とすことになる計算だ。一方、感染者に占める20歳未満の割合は2%強である。子供はかかりにくい、重症化しにくいは事実だろう。
この数字をもとに、世間では「子供は重症化しないから、一斉休校する必要がなかった」という意見も少なくない。しかし、感染が重症化しないからこそ、感染が広がりやすいと読み替えることができる。子供間の感染が家庭に持ち込まれれば、そして、それが高齢者に広がれば、日本は壊滅的な打撃を受ける。80歳以上の日本人は1000万人以上もいるのだ。
疫学的に正しいのかどうかという議論も無意味だ。このコロナ感染症に関してはすべてわかっているわけではない。致死率に関しては、中国から報告があった。しかし、PCR検査が進まない現状では、感染力が強いがどの程度強いのかは未知だ。
もちろん、症状が出ていない感染者のことなどわかりはしない。国会の議論を聞いていても、この総理の判断が正しいのかどうなのかなど、時が経たないとわからないことを質問しているが、非建設的だ。聞きかじりの言葉を使って質問しても、本質的な理解がないことを示しているようなものだ。
危機管理の大原則は、最悪の想定の下に先手を打つことだ。私は、今回の決定は効果的だと思う。
しかし、PCR検査を整備すると言いつつ、韓国に比べれば、その解析数は悲しくなるほど少ない。現状から数字を出すのではなく、必要な検査数を確保するために何をすべきかといった発想がないからだ。このままでは、感染は深く静かに広がるだけだと思う。悲しきかな、この国はという気分だ。
編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2020年3月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。