今日は朝一から、自民党で、知財調査会そして文科部会の合同会議が開かれました。
そこで著作権法改正案が了承となりましたので、皆さまにご報告します。
著作権法改正については、去年から、侵害コンテンツのダウンロード違法化、そしてリーチサイト規制について議論をしてきました。
結論としては、特に問題となっていたスクショ違法化の懸念はなくなりました。スクショ等に他人のコンテンツが写り込むこと等については違法化から除外するということで、新たに条文の変更を行いました。また、「二次創作・パロディ」のダウンロードや「軽微なもの」のダウンロードを違法化対象から除外することにしました。「軽微なもの」については、具体例もある程度明示されました。
さらに、「著作権者の利益を不当に害しないと認められる特別な事情がある場合」も違法化対象から除外することして、今回の法案であれば、正当な情報収集等への萎縮につながる懸念はないということが確認され、了承となりました。
リーチサイト規制に関しては、非親告罪とされていた案を、親告罪に変更しました。それによって、警察駆動ではなく、被害者である著作権者の告訴がなければ公訴を提起することができないということになりました。これによって、リーチサイト規制に関する懸念もかなり払拭されたと思っています。
今回の著作権法改正案の経緯について
これまでの経緯を詳しく皆さんに説明します。私の事務所では、文化庁著作権課と度重なる議論をしてきました。回数は、15回を超えます。基本的にこういった閣法の起案は省庁が行なっていますが、省庁と与党の間では、法案についての擦り合わせがなされます。私は、自民党で著作権法改正を扱う「知的財産戦略調査会 デジタル社会実現に向けての知財活用小委員会」の事務局長として、責任者として、文化庁著作権課との擦り合わせを行ってきました。
また、文化庁においては、「侵害コンテンツのダウンロード違法化の制度設計等に関する検討会」も行われました。 この文化庁の検討会は、権利者側がたくさん参加していましたので、著作権の強化、海賊版対策の強化が必要であるという意見を強く主張する方が少なくありませんでした。3回開かれた検討会では、非常に激しい議論が行われ、その結果がまとめ上げられました。
その後、検討会の結果を踏まえて文化庁が法案を作成し、それをもとに自民党での審査が始まりました。その審査は、私が事務局長を務める知財調査会の小委員会において、法案の概要審査を3回、関連審査を5回以上と丁寧かつ慎重に行いました。これは、自民党の中では異例中の異例です。一つの法案に関して、詳細に、かつ、周辺の議論も含めて、これだけの回数の会議が開かれるということはまずありません。それだけ徹底した審査を行ってきました。
それから、知財調査会の親会での概要審査、文科部会での概要審査をそれぞれ行い、それらをもとに文化庁が条文案を作成し、そして今日、文科部会と知財調査会の合同会議での条文審査を行いました。私の事務所では、今日の審査に先立ち、条文案を事前に手に入れて、きちっと著作権課と個別の条文に関して事前に打ち合わせを行い、これなら問題ないという確認をしていました。そのため、本日の合同会議では、異議なく法案が了承されました。
今回の法案は、10回を超える会議や検討会等で、あらゆる人たちの目に触れて、非常に問題が多かった前回の法案を修正して、海賊版は許さないが、決して萎縮に繋がらないようにと、見直されて出来たものであり、保護と利用のバランスがとれたものとなっています。
リーチサイト規制について
さてもう一度、改正の論点について詳しく解説していきたいと思います。今回の大きな論点になったのは、リーチサイト規制です。リーチサイト(leech site)は、多数の海賊版コンテンツのリンクが掲載され、海賊版の利用を助長・促進しているサイトです。このようなサイトは、海賊版被害を拡大させる元凶であり、権利者側から規制を求める強い要望がありました。
ただ、やはり前回の法案のように非親告罪、つまり警察が独自に動いて取り締まるということでは、ユーザーである一般国民にとって非常に心配です。また、複数の権利者側からヒアリングをしたところ、実はそのようなことは特に望んでいないということも分かりました。そこで、今回、リーチサイト規制を親告罪としました。この点は、文化庁の検討会では揺れましたが、自民党の審査の中で強く親告罪ということを打ち出し、最終的にそこに落ち着きました。
侵害コンテンツのダウンロード違法化について
さてもう一つの大きな論点が侵害コンテンツのダウンロード違法化です。ある通信社や新聞社等が「ダウンロード規制法案」とのニュースを流したため、正規版を含め全てのコンテンツのダウンロードが規制されるのではないかとの誤解がネット上で広がっていましたが、そうではありません。あくまでも侵害コンテンツ、簡単に言ってしまえば泥棒されたコンテンツ、それをダウンロードするのはいけないということで規制しようということです。これまでは録音録画以外についてこういった規制がなく、侵害コンテンツと分かっていても、海賊版だと分かっていても、それを止める手立てがなかったということで、今回見直しの対象になりました。
ただ、侵害コンテンツのダウンロードに限って違法化するということであっても、なんでもかんでも違法化されるということでは、ユーザーにとっては萎縮してしまうということが議論になりました。
特に、前回の法案の中で懸念の声が大きかったのは、スクリーンショットや生配信に他人のコンテンツが映り込んでいると、それだけで違法となってしまうということでした。この点については、侵害コンテンツダウンロードの違法化とは別に、30条の2の「付随対象著作物の利用」という著作権の制限規定を改正するという根本的な対策を行いました。
一方、今回は、侵害コンテンツのダウンロードであっても、「軽微なもの」であれば違法とはならないという変更も行いました。この点については、「軽微なもの」とは何かに関してかなり議論が行われました。 軽微なものの典型例としては、「数十ページで構成される漫画の一コマ~数コマのダウンロード」、「長文で構成される論文や新聞記事などの1行~数行のダウンロード」、それから「数百ページで構成される小説の1ページ~数ページのダウンロード」こういうものについては、分量的に軽微であるから大丈夫だという確認がなされました。 また、「サムネイル画像のダウンロード」についても、画質的に軽微であるから大丈夫という確認がなされています。
逆に軽微と言えないものはどのあたりかという線も今回明らかにされました。「漫画の1話の半分程度のダウンロード」、それから「論文や新聞記事の半分程度のダウンロード」、あるいは「絵画や写真など1枚で作品全体となるもののダウンロード」、こられは分量的に軽微とはいえないという確認がなされました。もう一つ、この軽微なものと言えない内容として「4コマ漫画や1コマ漫画の1コマのダウンロード」というものが示されていました。
しかし、それに対して、私の方から、「4コマ漫画の1コマのダウンロード」を軽微といえない典型例とするのは厳しいと指摘し、「1コマ漫画の1コマ全部のダウンロード」という例に変えてもらいました。また、「絵画・イラストなどの鮮明な画像のダウンロード」、「高画質の写真のダウンロード」は、画質的に軽微とはいえないという確認もなされています。
実際に、どの程度のものが「軽微なもの」として違法ではないとされるのかに関しては、この法案が通った後、裁判等で議論されることになりますが、非常に広い範囲のものが「軽微なもの」となり、まるごとダウンロードする場合以外の多が違法ではないとされることになるはずです。
再確認したこともあります。「違法にアップロードされたことを知りながら」という要件です。侵害コンテンツかどうかわからないのにダウンロードしてしまったという人を犯罪者にしてしまうというのは大問題です。そのようなことになればインターネットを使った情報収集等が萎縮してしまうということで、侵害コンテンツと知りながらという要件を設け、かつ、重過失によって知らなかった場合も除くと明示しています。条文上、「重大な過失により知らないで行う場合」でも違法にならないとされています。
これは、侵害コンテンツであることの予見が極めて容易な場合、あるいは著しい注意義務違反のため侵害コンテンツであることを予見・回避しなかった場合でも、知らなかった以上は違法ではないということであり、正直な話、確信犯でもなければ、侵害コンテンツのダウンロードが違法ではないというものになっています。極めて悪質な侵害コンテンツのダウンロード以外は規制の対象とならないということを、改めて確認しました。
刑事的規制に関しては萎縮効果が大きいため、民事的規制の要件に加えて、正規版が有償で公衆に提供・提示されている侵害コンテンツを、継続的に又は反復してダウンロードした場合に限って違法とするとされています。正規版が販売・配信等されていないといった場合には刑事罰の対象とならない、正規版が販売・配信等されていても一度きりのダウンロード等であれば刑事罰の対象とならないということです。
「著作権者の利益を不当に害しないと認められる特別な事情がある場合」について
自民党の審査の中で追加的に条文に盛り込まれた要件があります。それは、「著作権者の利益を不当に害しないと認められる特別な事情がある場合」を違法化対象から除外するというものです。この要件については、党内でも、さまざまな意見がありました。居直り犯が出てくるんじゃないかということで入れない方がいいのではないかという強い意見もありました。しかし、正当な情報収集等が萎縮することのないよう最大限のことを行うべきであるという意見でまとまり、この要件が盛り込まれました。
例えば、詐欺集団の作成した詐欺マニュアル(著作物)が、被害者救済団体によって告発サイトに無断掲載(違法アップロード)されている場合に、それを自分や家族を守る目的でダウンロードするようケースでは、この要件がなければ違法となりかねませんので、極力萎縮が起こらないよう、条文に明記しました。
私は、昨年の法案に対してこのままでは委縮効果が大きいと反対をしてきた身ですが、海賊版対策が不要であるという立場ではありません。海賊版対策は重要です。ただ、それと同様に情報収集等の自由を確保することも重要です。
今回の侵害コンテンツのダウンロード違法化については、相当な議論を行い、海賊版対策と情報収集等の自由のバランスについて検討に検討を重ね、確信犯のような場合でなければ違法とはならず、確実に委縮効果が起こらないということが条文レベルでも確認してきました。皆さまには、改めて確信犯のような悪質な場合でなければ大丈夫だということで、安心していただければと思います。
その他の海賊版対策について
海賊版対策としては、本来、ダウンロード側よりもアップロード側への対応をより強く行うべきです。そしてそのことについても検討を重ねています。海賊版のアップロードは、今でも違法であり厳しい刑罰もあります。しかし、海賊版がアップロードされたサーバーの多くは海外にあり、国際連携がなくては対応ができないという問題があります。
現在は、海賊版の撲滅に向けて国際連携がとれているとはいえずアップロード側への対応が十分ではありませんので、国際連携・国際執行の強化といったアップロード側への対処をより一層行っていくことを、法案の附則第7条にも盛り込みました。このことについては、引き続き、私が事務局長を務める自民党の会議の中でも、具体的にどうしていくかということについて議論を進めていきます。
そして、より大事な海賊版対策は、正規版の流通をもっとしっかりと行うということです。そもそも、海賊版を見たくて見ている人は本当は少ないのではないかということも言われています。実際、音楽や映画では、正規版のプラットフォームが充実したために違反をする人が大幅に減ったと聞いています。
また、漫画等でも、正規版の流通プラットフォームが整備されたことにより、ユーザーが正規版に流れ、そのため広告収入が減った海賊版サイトが自主的に閉鎖したといった話もあります。そういう意味では正規版の流通をしっかりやっていくことこそが、効果的な海賊版対策になるはずです。このことについても、私が事務局長を務める知財調査会の小委員会で継続して議論をしていきます。
今回の改正の意義について
そもそも、「ダウンロード」規制について意味があるのかという議論もなされました。今は、もはやダウンロード時代ではなく、ストリーミングという形でダウンロードしないで見ているだけというのが主流になってきていますし、契約もサブスクリプションという月額等の課金制度になってきていて、いちいち侵害コンテンツをダウンロードする人はいないのではないかといった意見もありました。そういう意味において、今回の改正は、啓蒙活動としての海賊版対策でしかないのではないかという議論もあったことを付け加えてあります。
しかしながら、権利者側からまだまだ侵害コンテンツのダウンロードによる被害が大きいとの話もあり、また、悪質な侵害コンテンツのダウンロードは野放しにできないということで、正当な情報収集等への萎縮にならないよう、慎重に配慮し規制を見直しました。踏み切りました。
デジタル時代の著作権法について
今回の著作権法改正案の議論では、著作権法が非常に分かりにくいとの指摘が多数あります。特に、著作権の制限の規定は、条文が長く、括弧書きも多く、こういった場合には適用がある、こういった場合には適用がないというようことが複雑な入れ子構造になっていて、極めて難解です。専門家が読んでも最近の著作権法はわかりにくいとの話も聞いています。
複製を禁止する権利を中心に組立てられている現行の著作権法は、瞬時に大量の著作物を複製することが容易になったデジタル時代に対応できない部分が増えてきています。もはや複製を禁止する権利を認めることによる「文化の発展」は現実的ではなくなっているとも言えますので、考え方を大きく変えて、複製され流通していくことを前提に、著作権者がしっかりと利益を享受できる制度の検討を進める必要があります。著作権には「人格権」としての側面と「財産権」としての側面がありますが、その際は、著作物を流通させて、価値が高まるという財産権としての側面を中心とすべきです。
専門家にとっても難解であり、デジタル時代に対応できていない著作権法については、フェアユースやクリエイティブコモンズということも参考にしながら、抜本的な見直しが必要であるといった声は、自民党内で、多くの議員から上がっています。そのため、知財調査会長の指示があり、私が事務局長を務める知財調査会の小委員会で、今後継続的に議論していくことになりました。時間がかかるかもしれませんが、日本の著作権法の全面的な見直しをスタートさせていきたいということになりました。 しっかりと、職責を果たしてまいります。
今回の著作権法改正案の今後について
今回の著作権法改正案は、いろいろな議論がありました。しかし、リーチサイト規制についても、侵害コンテンツのダウンロード違法化についても、萎縮が起こらないようにということを中心にきちっと議論を進め、海賊版対策と情報収集等の自由のバランスのとれた内容としました。
これから、この著作権法改正案が国会の中で議論されていくことになります。衆議院の文部科学委員会、参議院の文教科学委員会で、重要法案として審議される予定です。この法案に関してまだ不安があるのであれば、今度は質疑を通じて確認を迫っていくということが重要です。
今回の改正案については、自民党から、私に対して、国会審議で質疑に立つようにとの指示を受けています。オープンな場である国会審議では、何が論点だったのか、何が修正されたのか、萎縮の懸念があったものがどのように解消されたのか等ということを、Q&Aの形で、分かりやすくお示ししたいと考えています。
最後に
これまで議論されてきた内容については、最終的に閣議決定が行われればオープンにすることができます。それ以降、私のブログ又はホームページの中で、どのような議論が行われてきたのか、与党審査がどのように進められたのか、何が論点だったのか、規制を強化すべきという意見・萎縮をなくすべきという意見としてどのようなものがあったのか等を、皆さまにご報告していきたいところも思っております。
編集部より:この記事は参議院議員、山田太郎氏(自由民主党、全国比例)の公式ブログ 2020年3月9日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は参議院議員 山田太郎オフィシャルサイトをご覧ください。