日本の近視眼的政策と国民の追随意識が高める4つのリスク

和田 慎市

新型コロナウイルス感染拡大の影響が様々なところに現れている。これまで政府の対策が後手に回った感は否めないが、今はその責任を追及することより失敗も生かす形でこの先効果的な対策に繋げていくべきだろう。

新型コロナウイルスに関する記者会見を開いた安倍首相(14日、官邸サイトより:編集部)

一方で今回のウイルス感染を通して日本が抱える構造的な問題も明らかになった。例えば経済分野において特定の産業や国に頼りすぎればリスクは高まるということである。

政府のインバウンド振興策により訪日観光客数を増やすことばかりが強調され、流れに乗り遅れまいと多くの観光産業がこれに同調・追随し、外国人客誘致に血道をあげた結果、外国人客(特に中国人)に特化した宿泊施設の中には、入国制限で営業停止に追い込まれるところも出てきた。

冷静に考えればインバウンドに頼りすぎる観光事業形態は、観光客が来てくれなければ収益はほとんど生じない(一部通販は可能)という他力本願であり、元々リスクが大きいのである。世界情勢や外交関係を冷静に見極め、多様な地域(国内含む)から観光客を誘致するなどリスクの分散を図っていくべきだろう。

リスクを分散できない背景には、日本政府の近視眼的(場当たり的)政策と、政府の支援(補助金等)や一企業の成功があると、それに飛びつき次々と追随してしまうという日本人気質があるのではないか。そしてこの気質はインバウンド問題だけでなく、日本が恒常的に抱えているリスクにも深刻な影響を与える。

そのリスクは大きく4つある。

1つ目は食料・資源(エネルギー)である。日本の食料自給率は38%、エネルギー自給率は8%であり、いずれも先進国最低レベルである。また輸入先にも偏りが見られ、特に原油は政情不安定な中東から86%も輸入している。仮に供給国で政変や大災害、世界中で慢性的な食料・エネルギー不足が起こった場合、日本経済は壊滅的な打撃を受ける恐れがある。

対策としては過疎地での食料基地建設や、輸入国や資源の分散、再生エネルギーによる自給率の向上などが考えられる。

この食料・エネルギー安全保障に関しては、著者の以前の記事も参考にしていただきたい。

日本は「資源・食料安全保障」を重視すべきではないか! — 和田 慎市

2つ目は災害である。日本は世界でもまれにみる「災害列島」であり、地震、火山噴火、台風、集中豪雨などによる土砂崩れ、火砕流、液状化、浸水などの被害は慢性的に生じている。そのため罹災地復旧作業や防災減災対策には、他国とは比較にならない莫大な費用と大規模かつ長期間の工事を要する。

写真AC:編集部

対策としては特別災害危険地区からの大規模移住計画、首都直下型地震を想定した首都移転計画などが考えられる。

3つ目は長期的な人口減少である。現状が変わらなければ100年後に日本の人口は5千万人を切ると予想されている。その時日本のGNI、高齢者医療・介護、年金、地方自治体、人口分布(過疎など)などは一体どうなっているのか、シミュレーションすることすら難しい。

対策としてAIを活用した省力化・労働生産性の向上、日本ブランド(高付加価値製品)の開発、インテリ層外国人の招致(移住)、高齢者に優しいコンパクトシティの建設、国土・自治体再編(道州制など)が考えられる。

4つ目は財政赤字である。毎年数十兆円もの歳出超過が積み重なり、日本の累積債務はすでに1300兆円を超えている。諸外国と異なり債権者の多くが国内のため現在危機的な状況には至っていないが、この先災害対策費や社会保障費の急増が避けられない中、このまま累積債務が拡大し続ければ、借金はいずれ国富(国の総資産)を超え国債の暴落を招きかねない。

総務省サイトより:編集部

対策としては、各種補助金など歳出の無駄の徹底的洗い出しによるプライマリーバランスの達成と累積債務の凍結、年金制度大改革(積立式、ベーシックインカムなど)、富裕層をターゲットにした事業別寄附金募集(インターネットも駆使)などが考えられる。

さて、日本がこれだけ深刻なリスクを抱えている中で、果たして政府・国会は抜本的な対策を講じているのだろうか?

残念ながら今の国会はパフォーマンスを競うショーと化しており、多くの政治家は次の選挙で当選することが目的化し、票集めのため国民には受けを狙ったきれいごとしか言わない。政府は世論(支持率)を気にしたそぶりをしながらも、裏では既得権益層とのしがらみや補助金行政にどっぷりとつかり、抜本的な長期的戦略を打ち出せない。

一方、国民は昔から「お役所頼み」の気質があり、多少不満がありながらも自ら積極的に行動を起こす人は少なく、政府・自治体が何かしてくれるのを待つ受動的な人が多い。最近資質に欠ける政治家が増えたように思うが、ある意味国民の政治的無関心の裏返しでもあろう。

無関心になるのは、日本は経済力があり、治安もよく、島国ゆえに国境・領土問題の切迫感もないため、国民が平和で豊かな生活を当然のごとく謳歌しているからであり、積極的に現状を変えようとは思わないからであろう。

しかし、このまま政府・政治家が長期的ビジョンもなく場当たり的な施策を続け、国民も深く考えずに追随する状況が変わらなければ、前述の食料・エネルギー、災害、人口減少、財政赤字のリスクは年々高まり、徐々に私たちの生活を脅かしていくだろう。

もう問題は先送りできないところまで来ている。政府はこれらのリスクを直視し、たとえ支持率を落とそうとも国民に危機的状況をきちんと説明したうえで、相応の負担や協力を求める必要がある。

問題を先送りして困るのは未来の日本を担う若者・子供達である。政府も国民(大人)も数十年後の日本のため、今から再建策に取り組んでいく責任があるのではないか。

和田 慎市(わだ しんいち)私立高校講師
静岡県生まれ、東北大学理学部卒。前静岡県公立高校教頭。著書『実録・高校生事件ファイル』『いじめの正体』他。HP:先生が元気になる部屋 ブログ:わだしんの独り言