香港警察、コロナ禍のどさくさに紛れて民主派大物ら15人を逮捕

高橋 克己

黎智英氏(Wikipedia)

香港紙South China Morning Post(SCMP)は18日朝、中国に批判的なアップル・デイリー紙(台湾でも台湾版を発行)のオーナーである大立物(Tycoon)の黎智英(Jimmy Lai)を始め、元議員や弁護士、活動家ら15人が香港警察に逮捕されたと報じた。

逮捕されたのは、黎智英の他、民主党創設者で弁護士のMartin Lee、弁護士のAlbert HoとMargaret Ng、労働活動家のLee Cheuk-yan、元議員のCyd HoとLeung Kwok-hung、昨年に警察承認デモをいくつか組織したCivil Human Rights Frontの副議長Figo Chanら。

18日夜のAFPによれば、香港警察は、彼らに昨年8月と10月に違法な集会の開催・参加や9月と10月に無許可の集会を宣伝した疑いがあるとしており、15人全員が5月中旬に出廷する予定という。

ポンペオ米国務長官は18日夕方、「活動家らの逮捕を深く懸念している」と早々にツイート、「政治化された法執行機関(politicized law enforcement;在香港中国連絡事務所)の存在は、表現の自由、結社、平和的な集会の普遍的価値と矛盾している」と述べた。

SCMPはこの2月28日にも、その朝にJimmy Lai、Lee Cheuk-yanそして元議員のYeung Sumが逮捕拘留されたが、その日の昼に放免されたと報じていた。同記事によれば、容疑は彼らが昨年8月31日に違法な集会に参加し、公序良俗に反したこと。

記事には、弁護士らはこの3人の逮捕が将来のより多くの逮捕への道を開く「テストケース」になる可能性があると述べたともあった。果たして、今回の15人の逮捕はこの時に弁護士の予想したことが現実になった格好だ。

18日朝の逮捕報道に先立つ午前5時前、SCMPは17日夜に在香港中国連絡事務所(Liaison Office of the Central People’s Government in Hong。以下、連絡事務所)が行った次のような宣言を報じていた。以下はポイントの要約。

84年の英中共同宣言は返還後50年間、「一国二制度」での「高度な自治」を約束したが、

  • 高度な自治は完全な自治ではない(a high degree of autonomy is not complete autonomy)
  • 香港の自治権は中央政府から認可されたものであり、認可者は認可されたものを監督する権限を持つ
  • 連絡事務所は、香港と北京との関係について、基本法の正しい実施から社会全体の利益に関連する事項に至るまで、問題について声明を発表する権利がある
  • 連絡事務所は、中国政府が地方の問題に干渉することを禁止する半自治都市の憲法の制限対象ではない
  • これは単なる責任ではなく、(中国の)憲法と基本法によって与えられる権限である

連絡事務所は本年1月4日、浙江省出身の中国共産党上級メンバーで山西省党書記だったLuo Huining(駱恵寧)を新所長に迎えた。Luo所長は4月15日(中国の国家安全保障教育の日)、棚上げになっている国家安全条例(23条)の可決を求めていた。

香港基本法23条は「反逆罪、離脱、扇動、中央政府に対する転覆、または国家機密の盗難を禁止する法律を独自に制定する」ことを定めており、行政府は02年9月に制定を目指した。が、言論の自由が脅かされるとして市民の大反発が起き、以来ずっと棚上げになっている。

Luoの求めに対し香港の民主派議員らは、中国政府の「露骨な介入」は基本法の第22条に違反すると逆に非難、これに対して連絡事務所が「基本法を意図的に歪曲」し、「世論を意図的に誤解させている」と応酬するなど非難合戦になっていた。

昨年8月の香港デモ(doctorho/flickr)

今回の逮捕容疑とされる昨年のいくつかの行動についてSCMPは、「完全な民主主義を持っていない私たちにとって行列行進の自由は基本的な権利だ」、「政府はコロナとの戦いに集中すべきと思うが、昨年起こったことを放って置けないようだ」といった民主派の談話を載せる。

民主派の議員であるAndrew Wan Siu-kinの「集会は平和的で、参加者は賛美歌とスローガンだけを歌った」、「これは明らかに政治的迫害だ」とのコメントも報じた。これらに関する警察と民主派の双方の言い分については、7,000人ともいわれる逮捕者の現況ともども今後また続報があるだろう。

それにしてもこのコロナ禍のどさくさに紛れて、ほとんどが民主派の大物である15名を逮捕するとはいかにも中国らしいやり口だ。1月に事務所トップを代え、2月にLaiらを一旦拘留してすぐに釈放し、4月15日に23条の可決を求め、17日に宣言を出し、翌18日に逮捕という手順を踏んだ。

中国武漢発のコロナパンデミックで世界が呻吟する中、外出時のソーシャルディスタンスがいわれ香港市民の抗議活動ができないことを見越し、このような暴挙に出る。これを繰り返して、97年に約束した期間50年の半ばにして「一国二制度」を骨抜きにしてゆく魂胆だろう。

まさにこの冷酷さ卑劣さが「偉大な中華の復興」「中国の夢」を追う習近平が率いる中国共産党の本質だ。国際社会はそのことを確と心して、香港を注視せねばならない。