中国湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルス(covid-19)は19日現在、感染者数240万人を超え、死者は約16万5000人を出すなど世界で大暴れだ。
その新型コロナウイルスの「コロナ」の語源はラテン語から由来し、花冠、輪、王冠を意味することはよく知られているが、アルプスの小国のローマ・カトリック教国オーストリアやドイツでは「聖コロナ」の名前を付けた地名や教会がある。オーストリアのニーダーエステライヒ州のサンクト・コロナ・アム・ヴェグゼルもその一つだ。
同国日刊紙「クローネ」日曜版(4月19日)で文化学者、ローランド・ギルトラー教授が「聖コロナ」(ギリシャ語では Stephana)の由来について報じていた。以下、その内容を紹介する。
「聖コロナ」(Corona)についてコプト派教会の伝説とシリア正教では少し異なっているが、「聖コロナ」と呼ばれるようになった女性は西暦177年頃、キリスト教徒となった若いローマ帝国の兵士が仲間からその信仰ゆえに虐待されている姿を見て、兵士を慰め、鼓舞した。それをローマ軍の拷問官が気が付き、コロナを捕まえ、同じように拷問した。彼女は激しい弾圧にもかかわらず、キリスト教徒の信仰を失わず、殺害されるまで信仰を貫いた。コロナは当時、16歳だったという。
そして西暦313年、ローマ帝国の西方帝コンスタンティヌス1世と東方帝リキニウスが連名で、信仰の自由を保障するミラノ勅令を公布した結果、キリスト教は公認された。キリスト教の初期時代、迫害に屈しなかったコロナの信仰が称えられ、多くのキリスト者たちは後日、「聖コロナ」を称え、サンクト・コロナ・アム・ヴェクゼルを巡礼するようになったわけだ。
シェーナ(イタリアのトスカーナ州中部の都市)出身のヴィトレ(Vittore)と呼ばれていたローマ兵士と「聖コロナ」を描いた絵画が小村サンクト・コロナ・アム・ヴェクゼルの聖コロナ教会に飾ってあるという。
ところで、「聖コロナ」は農家たちの保護者と受け取られ、飼育動物の保護、そして感染病、流行病から守ってくれる聖人と見なされていった。なぜ、感染病から人間や動物を守ってくる守護神となったかは、ギルトラー教授も「明確な理由は分からない」という。
ちなみに、カトリック教会には多くの聖人がいる。そして各聖人は自身の得意の領域をもち、その領域に働く信者たちを保護する役割を持っている。例えば、ウィーン市14区の地下鉄構内に「聖バーバラ像」が置いてある。「聖バーバラ」は地下鉄工事やトンネル建設に従事する労働者の安全を守る聖人といわれている、といった具合だ。
同じことが「聖コロナ」にも当てはまる。「聖コロナ」は農業に従事する人々の保護者(パトロン)だが、同時に、宝石探しの人々など金銭に関連する職業の人々のパトロンでもあるという。例えば、「聖コロナ」が物乞いにお金を与えるところを描いた絵画もある。ドイツ・コロナと呼ばれた通貨があったし、1892年から1925年にかけオーストリア・ハンガリー帝国時代にはドイツ・コロナの他、ハンガリー・クローネと呼ばれる通貨があった。
17世紀、18世紀には、教会では「コロナ祈祷」と呼ばれる特別な祈りもあったという。ちなみに、カトリック教会の祭日カレンダーによれば、「聖コロナ」の祝日は5月14日だ。
バチカンニュースによると、ローマ・カトリック教会のフランシスコ教皇は毎日、新型コロナの感染に苦しむ信者たちのために祈りを捧げているという。信者のいないサンピエトロ大聖堂で挙行された今年のバチカンの復活祭(4月12日)でも、フランシスコ教皇は新型コロナが早く終息するように祈っている。フランシスコ教皇は聖コロナの名を挙げて祈っているのかもしれない。
カトリック信者だけではない。世界の全ての人々が新型コロナの早期終息を祈り、治療薬やワクチンが出来る日を待っている。約1850年前、16歳で殉教した少女「聖コロナ」が21世紀の中国で発生した「新型コロナ」を克服するために立ち上がってくれることを願う。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年4月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。