日本人はすでに新型コロナの「集団免疫」をもっているのか

池田 信夫

4月7日の緊急事態宣言から2週間たった。新型コロナの潜伏期間は平均5.8日。陽性/陰性の確認は検査の2週間後に行われるので、西浦博氏の「8割削減論」が正しいとすれば、きょうから新規感染者は激減してゼロに近づくはずだ。実際のデータはどうなっているだろうか。

図1 厚労省データ(東洋経済オンライン)

図1のように新規感染者数は12日をピークに減ったが、これは緊急事態宣言のおかげではない。12日に陽性と確認されたのは、その2週間前の3月下旬に感染した人である。これは海外からの帰国者が多かったためで、7日移動平均でみても15日(つまり3月末)がピークである。

他方で退院者は順調に増え、患者数は減っている。重症患者数や死者数はそこからさらに遅れてピークが来るのが普通である。図2のように16日には新規重症患者数もピークアウトし、死者数も同じだ。ひとまず緊急事態宣言の前に日本の新型コロナ感染はピークアウトしたとみていいだろう。

図2 厚労省データ(東洋経済オンライン)

これですべて終わったとはいえない。第二波が来るリスクは大きいが、この第一波から判断するかぎり、日本の感染の規模は死亡率でみると、図3のようにヨーロッパの1/100~1/500である。この違いは同じ病気とは思えないほど大きい。

図3 日本とヨーロッパのコロナ死亡率(札幌医科大学)

むしろ問題は、感染が少なすぎることだ。日本の基本再生産数R0がヨーロッパと同じ2.5だとすると、日本は集団免疫にほど遠い。集団免疫の公式から計算すると、日本人の60%(7560万人)が感染するまで終わらない。

これはどう考えても現実のデータと合わない。それを合わせる一つの方法が、西浦氏のように「これからR0が2.5になって感染爆発で42万人死ぬ」と考えることだが、これはもう誰も相手にしないだろう。

もう一つの考え方は、日本人が遺伝的にコロナに強いと考えることだが、他のインフルエンザなどの感染率をみても、日本人が特に風邪に強い傾向はみられない。

もう一つは、日本人の60%以上がすでにコロナに対する集団免疫をもっていると考えることだ。この場合は実効再生産数Rは1に近いはずで、専門家会議ではそういうデータが出ている。その原因の一つがBCG仮説だが、それ以外に昨年末から弱毒性ウイルスが流行したという仮説もある。

日本人は「自然免疫」をもっているという仮説

いずれもまだ仮説の域を出ていないが、相関関係を見る限り東アジア(および東欧や南米)では多くの人が新型コロナに(何らかの形で)免疫をもっている可能性が強い。その点で日本の状況は、集団免疫戦略が話題になっているスウェーデンとは違う。

ヨーロッパ(西欧と北欧)とアメリカでは人々が新型コロナに対する免疫をまったくもっていないため、ゼロから60%まで感染する必要があり、これは多くの犠牲をともなう。それはスウェーデンのような小国では可能だが、イギリスでは政治的に不可能だった。

それに対して日本人は、新型コロナに対する(非特異的な)自然免疫をもっていると思われる。この推測が学問的に正しいかどうかを確認するにはあと1年以上かかるだろうが、いま問題なのは学問的厳密性ではなく防疫政策である。

まず必要なのは抗体検査である。これは以前から多くの専門家が提唱してきたことだが、政府もようやく開始することになった。これで日本人の多くが抗体をもっているとわかると、今までの日本の防疫政策は無駄だったことになるが、PCR検査の陽性率をみても、それほど多くの人が新型コロナの抗体をもっているとは思えない。

だとすると考えられるのは、多くの日本人が自然免疫をもっているために重症化しにくいということである。これはコロナに特異的な抗体ではなく、幅広く呼吸器疾患にきくと思われる。その有力な原因がBCGだが、それにこだわる必要はない。大事なのはPCR検査やクラスター追跡のようなミクロの対策ではなく、マクロの全体状況を把握することだ。いずれにせよ感染が収束している状況で、緊急事態宣言を延長する必要はない。