中国人研究者、FBIに逮捕:米中の狭間で日本はどうする?!

中村 祐輔

ネットニュース(Scene)に「Former Cleveland Clinic Employee Arrested by FBI, Charged With Wire Fraud Over Chinese Grants」と出ていた。

Dr. Qing Wang, a former Cleveland Clinic employee, was arrested by the FBI today at his home in Shaker Heights and charged in federal court on allegations that he failed to disclose funding and employment in China to the National Institute of Health, from which he received millions of dollars in grants.

事件の舞台となったクリーブランド・クリニック(Wikipedia:編集部)

すでに、クリーブランド・クリニックを解雇されているようだが、米国のNIHから数億円単位の科学研究費を獲得する一方で、中国でも雇用され、研究費も得ていた。この中国での雇用や研究費を適正に報告していなかったことが逮捕の一義的な理由のようだ。

トランプ政権になって以降、中国人研究者に対するスパイ行為が問題視されるようになり、MDアンダーソンがんセンターをはじめ、他の研究機関でも中国人研究者が追放されるようになってきた。NIHとFBIが共同で調査を進めているが、コロナウイルスワクチンをめぐっても、米中対立が激化してきた。それは、ワクチン開発情報を中国が盗んだと言う大統領のコメントに象徴される。

米国と中国の掛け持ちをしている中国人研究者は少なくない。当然ながら米国内の研究機関において申告する義務があるが、この件のように申告していないのは論外だが、申告していても、本務がどちらかわからないようなケースも少なくない。生み出された知的財産の所属も不明確となる。特に、頭の中で考えられたアイデアなどは米国のものか、中国のものか、証明することはできない。

コロナウイルスのワクチンや治療薬開発に関して、世界が協力して治療薬を開発すればいいと、多くのきれいごと、夢物語のコメントが出されているが、現実の世界ではそんな甘い考えは通用するわけもなく、熾烈な競争となっている。特効薬やワクチンを生み出した企業には、膨大な利益がもたらされる。それを、国単位で考えれば、国の経済に大きく寄与するし、それらの薬剤を海外、特に、経済的に苦しい国に無償で提供できれば、国際的な立場を築き上げることができる。医療分野での貢献は、もっとも人の心に残る貢献となる。

協調と競争のせめぎ合いにように見えるが、競争がリアルワールドだ。すでに、日本は医薬品の輸入超過額が2兆円に達しており、オールジャパンで開発を進めるべきであるが、一本化した動きは見られない。アビガンやイベルメクチンは国産だが、日本に国際的な知的財産権があるわけではない。国策としてのワクチン開発が必要である。

今回のコロナ騒動で分かったように、重篤な感染症が流行した場合には、最終的には国・国民をウイルスという外敵から守るために鎖国状況が生ずる。そして、マスク・防護服・医療機器を国単位で確保する必要に迫られるのだ。それに関しては、中国が今年の早い時点で買い占めていたという報道もあったが、真相は闇の中である。

さらに、経済活動をどのように再開し、維持していくのかは、単に国内の問題ではなく、海外との競争力維持のために極めて重要な課題である。他国が生産活動を元に戻した時に、日本が立ち遅れれば、市場を奪われてしまう。そうなれば、一過性の経済の低迷ではなく、長期間にわたって、日本の経済活動は低い状態となり、国力は衰える。感染の制御と経済活動のバランスが重要だ。当然ながら、経済活動の再開は感染の拡大と犠牲が伴う。

PCR検査が増えないことからわかるように、医学・医療分野での、特にゲノムや遺伝子解析分野での、日本の体制の遅れは致命的である。PCR検査が増えない細かい理由はたくさんあげられているが、一言で言えば、「ゲノム医学の決定的な遅れ」である。ゲノムの失われた10年について。このブログで何度か触れたが、もはや、「米中の競争相手ではない」どころではなく、世界の孤児となりつつあるゲノム医療である。


編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2020年5月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。