ニュースの評価表示が不可欠
「何が本当か」「どちらが正しいのか」。メディアが流すニュースに接していると、こうした判断がつきかねるケースが増えています。メディアは情報を急いで流していればいい時代から、情報の評価を伴うニュースの伝達が不可欠な時代に変わりました。
米国では、SNSで投稿への監視機能を強化する姿勢に転換を始めています。「政治家や政治関係者の発言であっても、投稿削除や警告表示をする場合がある」(ツイッター、フェイスブック)。米国紙は、辛辣な解説、論説、オピニオンをどしどし掲載し、ニュースの評価を下しています。
日本の場合は、チェックや評価は後回しにして、情報を流すのが原則ですね。対立する動きの報道は慎重で、両論併記をしておけば責任を問われない。社説は社会に判断材料を提供するのが使命なのに、「議論を深めてほしい。丁寧に説明を」と書いて終わりといった傾向が目立ちます。
16日の朝刊を読んでいて、「明らかにどちらかが間違っているか、ウソをついている」としかいいようのない記事が多く並んでいました。もう少し、踏み込んだコメントやファクトチェックがほしいものだと、読者は不満でしょう。
まず、安倍政権が力を入れている観光支援策「Go To トラベル」です。小池都知事が「今や感染拡大警報の状況」と発言し、野党は「コロナ感染が拡大しているのに、観光を奨励するのは間違い。コロナが収束した後に支援策を実施するとの閣議決定がある」などと、批判しています。
これに対し、西村経済再生相は「5月25日に緊急事態宣言を解除した。その時は流行は収束させたと判断している」と、答弁しました。これは苦し紛れの弁明で、ウソでしょう。観光支援策が問われているのは、現在の感染状況です。新聞には「賛否が激しく割れている最中に、先を急いでやるべき事業ではない」と、はっきり書いてもらいたい。
新聞は何か見解を表明する際は、社説の場を選ぶ。次々に新しい動きが出てくる時代に入ったのに、いまだに社説至上主義をとっています。社説に頼っていたら、タイミング失するし、本数も限られる。争点になっている情報には、簡潔に意見を述べるミニ解説を添えたらたらどうだろう。
コロナ対策分科会の尾身茂会長は「旅行自体が感染を起こすことはない。旅先で3密状態の会食、集会などが感染を拡大する」と、16日に述べました。そうなのでしょう。西村氏はなぜ「あの時は収束と判断した」などと、口走ったのか。首相の指示待ちで、事実を言えなかったのでしょう。
16日の新聞には、森友学園事件を巡る財務省の公文書改ざん問題で、自殺した近畿財務局職員の妻が起こした損害賠償訴訟(1億1200万円)の記事が載っていました。「夫の自死の真相を知りたい」と迫る妻に対し、国と佐川氏(当時の財務省理財局長)は争う姿勢を見せたと、あります。
新聞は両者の言い分を並べています。裁判だから判決がでるまで待とうということなのでしょう。それにしても佐川氏側の「判例上、公務員の不法行為を問う国賠訴訟では、公務員個人は賠償責任を負わない」という主張は、この事件は該当するのか、しないのか。
新聞には「佐川氏による露骨な文書改ざん指示、主導は犯罪的な行為であり、この判例を適用するのは疑問だ」くらいの指摘はあってほしい。さらに、その判例の紹介、法律家によるコメントは記事掲載の必須条件です。
この日の新聞には、日銀が金融政策決定会合で、新型コロナ対応の大規模な金融緩和政策の維持を決め、黒田総裁の記者会見の詳報(日経)も載っています。会見の発言だから、そのまま載せておけばいいということはありません。虚偽に近いような部分がいくつかあります。
「2%の物価上昇率目標は、目標も手段も適切だ」と。手段が適切なら目標が達成されているはずです。もう10年も0%に近い水準が続き、だれも実現できるとは思っていない。さらに「(見直す考え)は全くない」と。虚偽というのは言い過ぎにしても、黙殺していい発言です。
さらに「財政政策と金融政策のポリシーミックスが実現されている。金融・金利政策は財政ファイナンス(日銀による国債購入)ではない」と。これは虚偽に近い説明です。ポリシーミックスと言えば、聞こえがいいだけです。「財政赤字支援のために中央銀行の独立性が失われている」というのが実態です。
安倍首相もコロナ対策で1次、2次にわたり、200兆円もの補正予算を組み、財政赤字の拡大に危機感を持つのが普通なのに、海外に向け「世界最大級のコロナ対策」と胸を張ったのには、驚きました。「世界最大級の財政赤字国」が正解なのに、実態を隠した発言です。ではどうするのかを、識者はあまり触れたがらない。権力を持った者に、識者も及び腰になる時代です。
情報伝達が加速し、ちょっとしたことから大火になり、対立の火種になるので、政治はますます真実、事実を隠したがる。ウソの情報を故意に流す動きをチェックするのが第一種の「ファクト・チェック」とすれば、現実と違う発言や政策の虚偽を解明する第二種の「ファクトチェック」が、それに劣らず必要です。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2020年7月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。