「母親ならポテサラくらい作ったらどうだ」おじさんが見落としている3つのこと

黒坂 岳央

黒坂岳央(くろさか たけを)です。
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サッパTV/写真AC

買い物中に「母親ならポテトサラダくらい作ったらどうだ」と言い放ったオジサンが話題になっている。別に犯罪を犯したわけでもないし、個人の感想を伝えただけなので問題はなさそうに思える。だが、この発言にはツッコミどころが満載だったために、Twitterで激しく拡散された。

このポテサラおじさんが見落としているであろう、3つの点について論考してみる。

https://twitter.com/takeokurosaka/status/1283532959912349697

 1.ポテサラは簡単に作れない

「ポテサラくらい」とオジサンはいった。なるほど、「くらい」というからには「一瞬で作れるものを買ってるんじゃねえよw」というオジサンの意思が伝わってくる。「今日の晩御飯は簡単に天ぷらとかでいいよ」とさらっと言いのけて、イラッとくる夫婦の会話を思わせる一言だ。

だが、ポテサラは簡単ではない。筆者は専業主婦ではないが、料理は日常的にやっているし、ポテサラを作った経験もあるので分かる。ポテサラは数あるレシピの中でも割と面倒な部類に入る。

参考までに動画レシピサイト、クラシルで紹介されているものだと、ポテトサラダの調理に必要な調理時間はざっくり40分間!しかも圧力鍋でカレーを作る時みたく、調理時間の大部分は「火が通るのを待つ」ということに比べて、ジャガイモを潰したりするなど、ポテサラは実際に手を動かす時間が多くを占めている。

しかも、カレーなどと違ってポテサラは主食ではなく、あくまでサイドディッシュ。ガッツリ腹にたまるものでもない。この位置づけが「ポテサラのようなサイドディッシュくらい、自分で作れよ」という感想につながったのだろう。さらにさらにポテサラに付き物もハムも曲者だ。ハムは開封後、速やかに劣化が始まる。ポテサラの調理に使って余ったハムの処分はどうするのだろう?

ポテサラは簡単じゃないのだ。

 2.母親業をなめてはいけない

育児にガチで参加したことがない人は、総じて母親業をなめている傾向にあると感じる。

自分は子供二人の父親だが、一日のかなりの時間、子供の世話をしている。料理も作っている。仕事を頑張る奥さんの手を空けるために、家事や育児もやっている。

専業でやっているガチ勢に比べれば大したことはないけど、母親業の大変さを少しは理解しているつもりだ。その立場から言わせてもらうと、このポテサラオジサンは母親業を甘く見ている。

子連れで買い物をするだけでも、肉体的侵襲はハンパではないのだ。両手にたくさんの買い物袋を下げながら、突然子供が「おしっこ。漏れる!」と言い出すレベルの絶望的シーンは数多く存在する。1つ1つの業務は小さくて簡単なのだが、それが無数に集合している。それが家事であり、母親業だ。

さらにその仕事の多くは外注が難しい。筆者は食事については可能な限り、外注化を進めた。割高になるけど、時間を買うつもりで宅食サービスもかなり活用している。掃除もルンバ、大掃除はダスキンのサービスを利用している。だが、それでもまかないきれないほど、母親業は労働集約的な業務の集合体だ。

その苦労を知らない赤の他人から、「母親ならポテサラくらい」と言われるのはまさしく心外だろう。

 3.ポテサラを買うのではなく、時間を買っている

はむぱん/写真AC

スーパーでポテサラを買う真の意義を、このオジサンは理解できていない。上述の通り、ポテサラを作るのは大変な作業だ。だからこそ、スーパーの惣菜コーナーで買うことは、時間を得ることと同義だ。このツイートを見て欲しい。

まさしくこれだ。このコーナーでは時間を販売している。40分間+αの調理時間をわずかな価格で販売している。リターン>コスト、という構図が容易に成り立つので、積極活用することには経済的合理性がある。あと、言っておくがスーパーのポテサラはおいしい。

 まとめ

要するにポテサラオジサンは何も分かっていないのに、母親業を一行で切り捨ててしまったためにこのような騒ぎを生んでいる。

人は分かり合えない。だからこそ、お互いに理解を深めるために手を伸ばし合う姿勢が大事だ。

ポテサラオジサンも「そのくらい作れよw」というのではなく、(なぜ、自分で作らずスーパーの惣菜コーナーでこれだけ売れているのだろうか?)と市場メカニズムへの理解の姿勢を持つことで、現実的な市場肌感覚を獲得することに近づくのではないだろうか。

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。