感染拡大防止には感染症法と特措法の改正が必要だ

玉木 雄一郎

なぜ、日本のコロナ対策は場当たり的な対応に終始し、効果的な対策が打てないのか。指導者のリーダーシップの欠如も原因だが、現行法の法体系が新型コロナウイルス感染症に的確に対応できるものになっていないことも一因だと考える。

私は感染拡大防止と経済再建を実現する5つの政策の柱を示しているが、その実現のためにも、速やかに臨時国会を開き、現行法では対応できない「法的な空白」を埋める法改正を提案したい。

そもそも、政府は128日に「新型コロナウイルス感染症」を、特措法の対象である感染症法6条第7項の「新型インフルエンザ等」や第9項の「新感染症」ではなく、対象ではない第8項の「指定感染症(2類感染症)」に政令指定した。

しかし、その後の感染拡大を受けて、特措法に基づく対応とりわけ緊急事態宣言の発令を迫られ、313日、新型コロナを、特措法の対象ではない第8項の指定感染症に指定したまま、特措法の対象となる第7項の「新型インフルエンザ等」と「みなす」法改正を行い、特措法を適用することにした。

本来なら、特措法の対象ではない「指定感染症」の指定を外して、特措法の対象となる「新感染症」に指定し直して対応すべきだったのに、「新型インフルエンザ等とみなす」という歪な形での法改正を行った。

我が党も法改正に賛成はしたが、当時はスピード最優先で、事実上、成立が与野党で合意されていたため本質的な議論が置き去りにされた。どう考えても新型コロナは「新型インフルエンザ等」ではなく、「みなし」で済む話ではないはずだ。こうした現行法を苦肉の策で現行法に当てはめようとする対応が、今日の混乱を招く遠因になっているのではないか。

だからこそ、感染症法や特措法をはじめとした関連法令を改正し、新型コロナウイルス感染症の特性を踏まえた適切な「検査」や「入院」そして「隔離(保護)」や「追跡」が的確に行えるよう法体系を整理し直し、新型コロナウイルス感染症に対応した新たなカテゴリー(類型)を創設する必要があると考える。

同時に、地方の首長さんからは「財源なき権限」の問題が度々指摘されており、休業要請や指示を出す場合には、法律に財源の裏付けのある「休業補償」ができる規定の整備も必要だ。

国民民主党サイトより

まず、検査に関しては、保健所が中心となって行う行政検査の他に、医師の判断のみに基づいて行われる検査(保険適用)や、民間企業や大学等が行う医師以外による検査も拡充する必要がある。そのため、法律上、行政検査とは別の「社会的検査」のカテゴリーを新設すべきと考える。保健所や国立感染症研究所が関与する行政検査ですべて対応しようとする現行法の枠組みでは、過度に保健所等に負担がかかってしまい検査数を増やすことができない。

また、医療機関や介護施設等をはじめとしたいわゆるエッセンシャルワーカーについては、職員が、例えば少なくとも2週間に1回はPCR検査や抗原検査を受けることができるようにし、その際の公的負担についても法律上の規定を設けてはどうか。現行の感染症法の規定では、濃厚接触者など積極的疫学調査の対象でなければ検査費用は公費負担とはならず自己負担となってしまう。

加えて、上述したとおり、原則、陽性者は全員入院としている感染症法上の位置づけ(19条や46条等)も変えなくてはならない。無症状感染者や軽症者については、法律上もホテルや自宅での療養ができるよう法改正する必要があるが、その際の細かい基準や報告義務なども政省令で明示的に規定すべきだろう。現在行われているホテルや自宅に隔離(保護)する対応はあくまで運用によるものに過ぎない。(31日や42日付の厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部から都道府県等に対する事務連絡等)

最後に、検査実績や陽性者・接触者情報の一元化や共有・公表も極めて重要である。現在運用されている新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(HER-SYS)や接触確認アプリ(COCOA)の積極活用と民間がこれらのデータ活用ができるようなルールも整備すべきだ。利用目的や範囲を限定した上で、個人の位置情報等データを感染拡大防止に積極活用する法整備も併せて検討すべきではないだろうか。

この他にも、特措法を改正して、法律に財源の裏付けのある「休業補償」や、単なる「お願い」ベースの自粛要請ではなく、地域や業種を限定したピンポイントでの休業命令や違反者に対する罰則の導入の是非も検討する必要があると考える。その際には、国民の予測可能性を高める観点から、命令の発令基準や発令主体(国か知事か)を明らかにしておく必要がある。

いずれにしても、現状のように、法的根拠を曖昧にしたまま、国民の「自粛」を求めたり、自粛警察のような「私刑」に委ねるやり方は「法の支配」の観点からも問題が多い。

いずれにしても感染症法や特措法などの改正が急がれる。だからこそ、速やかに臨時国会を開いてもらいたい。野党は憲法53条に基づく開会要求を出している。与野党を超えて国会議員が立法府としての責任を果たすときだ。国民の命・健康、経済・くらしを守るため、お盆返上で取り組もうではないか。


編集部より:この記事は、国民民主党代表、衆議院議員・玉木雄一郎氏(香川2区)の公式ブログ 2020年8月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はたまき雄一郎ブログをご覧ください。