コロナで日産に再び経営危機:経営陣も巨悪ゴーンも眠れぬ夜

日産自動車を私物化したゴーン元会長(66)を逮捕、起訴したのに、海外に逃亡され、事件は次第に忘れ去られると思っていました。そこへ20日の朝刊(読売新聞)が一面トップで、「私的流用が新たに10億円/国税指摘」「申告漏れで追徴課税」という特報が掲載され、各メディアが追随しました。

日産時代のゴーン元会長(当時の日産サイトより)

久しぶりのゴーン報道です。追徴税額は2億5000万円で、既報の私的流用の1・5億円を含めると、8年間で11億5000千万円の申告漏れです。「経費として認められない私的流用」なので、日産が追徴分を支払います。ゴーン被告は「私には関係がない」と、逃亡先のレバノンで高笑いしているでしょう。

日産は一連の私的流用や会社資金の不正支出で、100億円の損害を被ったとして、ゴーンに弁済を求める訴訟を横浜地裁に起こしています。ゴーンが日本側に引き渡されることはまずないと、されていますから、日産が「100億円を返せ」と叫んでも実現は難しい。日産だけが損をする。

ゴーンは在任中の前半、瀕死の日産を剛腕で再建した伝説的な名経営者でありました。後半の在任期間、次第に会社を私物化した独裁者となり、結局、18年末に東京地検に金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)、会社法違反(特別背任)で逮捕、起訴されました。

レバノンに逃亡して、ワインを飲み高笑いする上機嫌の映像は何度も流されています。「巨悪」ほど捕まらない。逮捕されても、多額の報酬を払って弁護士を雇い、有利な判決に持ち込もうとする。万引きやちょっとした詐欺などの「小悪」は直ぐに捕まる。釈然としない不条理の世界です。

「巨悪は捕まらない」と、思っていましたら一転、「巨悪は眠れず」の展開になりました。首都ベイルートで化学物質の港湾倉庫で死者100人以上の大爆発(4日)がありました。ゴーンが住む高級住宅街も被害を受けたとの報道です。「日本にいるより安全」と考えて選んだ祖国は政情不安が高まっており、その一端が爆発事故です。

レバノンは若年層の失業率は60%にも達し、食料品のインフレ率は170%とか。反政府デモが激しさを増し、不正蓄財の政治家、企業家たちへの怒りは凄まじく、ゴーンも対象者に含まれておかしくないそうです。新型コロナの感染も広がっています。「安住の地」のはずが今や「巨悪は眠れぬ地」です。

判決が下されるまでは「無罪扱い」(推定無罪の原則)ですから、「巨悪」と決めつけてはいけないにしても、報道されている情報からすると、経営者史上、稀にみる「巨悪」の積み重ねです。海外逃亡を図ったのは、最強の弁護士をつけても裁判の勝ち目はないし、損害賠償の民事訴訟で負ければ、不正蓄財が身ぐるみはがされるのを恐れたからでしょう。

ゴーンの会社資金の不正流用は、フランスの検察も捜査に着手しているとの報道です。7月に出頭要請があったのに、ゴーンは拒否し、出国しない。米国でも、ゴーンの海外逃亡を実行した元グリーンベレー(陸軍特殊部隊)が逮捕され、保釈を拒否しています。最後まで逃げ切れるものか。

今やゴーン事件そのものより、日産自体の経営危機が深刻です。コロナ危機の影響もあり、3月期決算は6700億円の赤字、今期もそれ以上の赤字が予想されています。グループ企業の三菱自動車も3600億円の赤字で、合算すると、過去最大の赤字だそうです。

ゴーン時代の拡大路線が裏目に出て、過剰な設備、人員を抱えみ、さらに北米市場における値引き(販売奨励金)から立ち直れない。「ゴーンがいてくれたなら」どころか、「コロナ危機次第では、日産の経営行き詰まりが再燃し、振り出しに戻る」とも言われます。

「眠れぬ夜」は、ゴーンばかりでなく、日産の現経営陣も同じなのかもしれません。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2020年8月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。