米国での新型コロナウイルスの”新常態”が、郊外への引っ越しであるとこちらなどで指摘させて頂いておりました。
在宅勤務の普及も合わせ、より良い仕事環境を求めるアメリカ人は東から西へ移動するGO!Westの動きを加速させ、郊外へ脱出しつつあります。NY市では賃貸物件の在庫件数が急増し、家賃も急落中。NY市からの転出は急増著しく、英デイリー・メール紙は「NYC Exodus (NY市からの大脱出)」と名付けるほどです。
7月まで新型コロナウイルスの感染者数が全米一だっただけに、感染リスクへの懸念が引っ越しの主因とされますが、それだけではありません。富裕層を中心に治安の悪化が叫ばれ、1ベッドルーム(1Kから1LDKまで)の平均家賃が2,950ドル(約31万円)のアッパー・ウエスト・サイドでは、自警団が結成されているとか。ホームレスの増加に加え、ブラック・ライブズ・マターなど人種差別撲滅運動が一転、暴徒化しショーウィンドウを破壊する状況を受け、治安悪化が問題視されているのです。
NY市での転出者急増もさることながら、州全体ではこれを超える場所があります。セルフ引っ越しトレーラー大手ユーホールの親会社、ユニグループによれば、3月1日から8月19日の間に行われた引っ越しのうち転居率が高かった州は以下の通り。
チャート:転居比率が高い州
そう、NY市のベットダウンを抱えるニュージャージー州がトップに立ち、転出比率は引っ越し全体の69%と、転入率の31%を大きく上回りました。ニュージャージー州も感染者数で8位(9月1日時点)ですから、影響が大きかったのでしょう。その次はNY州で転出比率が67%となりました。地域別では北東部が10州のうち4州を占めます。
その他西部では唯一、7月にNY州を抜いて1位に立ったカリフォルニア州が入りました。これはサンフランシスコ市を始め都会での脱出者数が増えたためでしょう。
逆に転入比率が高い州は、こちら。
チャート:転入比率の上位10州
栄えある1位はバーモント州で、転入比率は75%でした。北東部で唯一入っただけでなく、首位に立った理由は転居比率の高い州トップ10のうち北東部が4州を占めた裏返しと言えます。なぜバーモント州と言えば、2018年時点の全米総合ランキングで5位、治安部門でも2位なのですよ。しかもマンスフィールド山を含むグリーン山脈など自然が豊富で、子供を育てる環境としてもバッチリなのですよね。
バーモント州以外は、南部と西部がそろいました。アイダホ州やオレゴン州は大手IT企業がサーバー施設を含め展開している点が魅力で、アリゾナ州やテネシー州など南部はリーズナブルな生活費も魅力。まさにGO!Westの典型例と言えるでしょう。
米国の”新常態”を巡る変化はまだ始まったばかりですが、今後どこまで加速するかによって、州別の成長率を始め財政、地方債市場にインパクトを与えること必至です。忘れてならないのが、国勢調査に基づく下院議席数に増減に加え、上下院議員数が割り当てられる米大統領選の選挙人数です。国勢調査は10年に1度ですから劇的に変化することはないでしょうが、コロナ禍は米国が変わる分岐点となることに間違いありません。
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2020年9月2日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。