今週のメルマガ前半部の紹介です。最近、同一労働同一賃金に関する最高裁の判決が続き、その判断基準がにわかに注目を集めています。
先の2件(大阪医科薬科大、メトロコマース)では「格差は不合理とは言えない」と非正規側が敗訴したが、その後の日本郵便のケースでは「格差は不合理だ」との判断が示されています。
恐らく今頃「うちは大丈夫なの?」と心配している経営者や人事部の人間は多いと思いますね。というわけで、いい機会なので“同一労働同一賃金”実現に向けたアプローチと企業動向等についてまとめておきましょう。
正社員っぽさがあるとNG
先の2件の判決直後に「これで非正規雇用には賞与も退職金も払わなくて良いというお墨付きが出たぞ」と能天気に喜んでる経営者がチラホラ見られましたが、以下に述べるようにそれは完全に間違いです。
まず、一般的な日本企業の正社員は、正社員という身分で召し抱えられる代わりに業務命令でどんな仕事でも担当し、残業もいとわずいつでも全国転勤するという滅私奉公スタイルが基本です。
一方、パートや契約社員と言った非正規雇用労働者は「○○の仕事を時給いくらで」という具合に採用時に具体的な業務内容が限定され、それに対して時給が設定される職務給方式です。
両者は賃金の基準が全く異なるので、仮にある職場でほとんど同じ業務に従事していたとしても「あの正社員のオジサンは非正規の自分の3倍貰っているから自分にも同じだけ払え」とは言えないわけですね。
要は、正社員の賃金にはそれまで積み上げてきた滅私奉公に対する対価も含まれているわけです。
実際に先2件の判決では「(業務命令に従う)責任の範囲や異動の有無に違いがあるので不合理とは言えない」と言及されています。逆に言えば、そうした点で実質的な差が認められなければ賞与や退職金も支払わないといけないということになります。
そして2日後の日本郵便のケースでは、そうした点で正社員と大きな差が認められなかったため、不合理だと判断されたわけでしょう。
余談ですけど、日本郵便の判決は企業にとっては結構シビアだなという印象です。正規職員19万人に対し非正規雇用18万人を抱える同社にとって、この判決は経営にそれなりの影響を与えることになるはずです。コストは正社員の待遇を切り下げることでねん出するしかないので労組も無傷ではすみません。
同社は数年前から正社員の手当を廃止して非正規の手当てを新設したりと、“同一労働同一賃金”の実現にはかなり力を入れていた会社です。それでも“正社員っぽさ”が認められれば、経営に打撃を与えるような判決がさくっと出されるというのは、世の大企業にとって他人ごとではないはず。
後述するように、各社はあらゆる手段を講じて隙をふさごうとするでしょう。結果的に正社員と非正規雇用労働者は完全に分化し、格差は固定化されるはずです。キャリアも仕事内容も全く異なるものにしちゃえば、そもそも同一労働同一賃金の成立する余地はゼロだからです。
今回の日本郵便の件を「同一労働同一賃金への一歩だ!」みたいに評価しているリベラル界隈の識者は多いんですが、本当に先へ進む一歩なんですかね。筆者には道を踏み外して迷走する一歩のように見えますけど。
以降、
今後の日本企業の対応について
なぜ日本では雇用が不安定な人ほど低賃金なのか
※詳細はメルマガにて(夜間飛行)
Q:「仕事よりプライベートを優先したい」という新人について
→A:「とりあえず筆者は20代で汗かかずに大成した人に会ったことないです」
Q:「マネジメントが苦痛です」
→A:「自分でプレイングしちゃう以外にないですね」
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編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’s Labo」2020年10月22日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。