外国人技能実習生が絡んだ犯罪が多発する訳 --- 北村 泰

寄稿

外国人技能実習生が絡んだ、残念なニュースが次々に飛び込んできている。

家畜盗難、ベトナム人らが関与か 群馬・太田在住の19人 ー共同通信(2020年10月26日)
覚醒剤所持容疑でベトナム国籍の10人逮捕 家畜窃盗事件との関連も捜査 ー毎日新聞(2020年10月28日)
自宅アパートで豚を解体 容疑のベトナム人技能実習生4人を逮捕 ー上毛新聞(2020年10月29日)

コロナ禍で帰国できない外国人が急増していることは以前記事にしたが、職も失い帰国もできない状況が長期化し、犯罪に走ってしまう実習生が増えてきているのかもしれない。

事件に関しては徹底的に真相解明がなされ、必要な処罰が下るべきと考えるが、だからといって外国人を糾弾し、差別するような事は断じて避けなくてはいけない。実習生達を追い詰めている根本的な原因は外国人技能実習制度の構造的欠陥なのだ。

1.「実習」という建前が招いた実習生達の孤立

制度の問題点はいくつかあるが、このコロナ禍でポイントとなってくるのは「実習期限」と「転職の自由」、そして「監理団体」だ。これらの制限は彼らを「移民」ではない、とする建前として付けられた条件であり、技能実習生はあくまで「実習」の為に来日しているから、学校のように「実習期限」があり、転職も原則認められない。

しかし実習を企業任せにしては、結局移民と変わらない。そこで「監理団体」の登場だ。あまり知られていないが、実習生の大半はこの監理団体を通して企業に派遣されている。実習外の業務や違法労働をさせないように企業を監督し、実習生をサポートする監理団体。しかしこれが全く機能していない。そもそも監理団体は受け入れる企業から支払われる手数料で運営されている。お客様である企業に対し厳しく指導、監督などできるはずも無い。受け入れ企業の7割以上がなんらかの違反をしている事がその証拠だ。

このコロナ禍で政府は特例で実習の継続を認めているが、結局は企業次第。多くの実習生達は実習期限を迎え、職を無くしている。寮を追い出され、住む場所が無くなる者も少なくない。母国へ帰るための飛行機は順番待ちでいつになるか分からない。

2.無職の実習生が大量に発生している事実

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国も何もしなかった訳ではない。特例で在留期限の延長を認め、在留資格の切り替えによって他業種で働く事も可能にした。しかし残念ながらそれだけだ。これまで転職のマッチングをしてきた監理団体や企業は無く、ノウハウやネットワークも無い上、売上にならないので積極的に取り組む理由も無い。これでは対応したとは言えない。

参考: 新型コロナウイルス感染症の感染拡大等を受けた技能実習生の在留諸申請の取扱いについて ー法務省(2020年10月6日更新)

転職が機能しているかは、在留資格の統計を見れば分かる。特例で転職した場合、在留資格は「特定技能」となるからだ。最新の統計では6月時点で5950人。コロナ禍前の2019年12月時点から4300人増に留まる。毎月1万人以上の技能実習生が帰国していた昨年実績のひと月分にも満たない数だ。これを見るだけで無職の元技能実習生が数万人日本に残っていても何もおかしくはない計算になる。

彼らのことを、いつ爆発するか分からない爆弾、なんて言いたくない。しかし収入も住居も不安定で、帰国も叶わない。こんな状況に追い込まれても尚、自制できる者はどれほどいるだろうか。犯罪組織にそそのかされ、犯罪を犯した彼らは加害者だが、制度による被害者でもある事を私は強く主張したい。

3.極論、感情論はもう要らない

移民をめぐる議論はとてもセンシティブだ。外国人の犯罪が報道される度に移民排斥を唱える人が声を上げ、虐げられる外国人が報道される度に実習生制度廃止を叫ぶ人がいる。

しかしこれらの極論、感情論は事態を悪化させるばかりだ。前者は日本にいる外国人を追い詰め、後者は真っ当な制度設計を遠ざける。私達は、今この時点で40万人以上の技能実習生達が日本に滞在しており、農家や中小企業が彼らに依存している現実を直視しなければいけない。

議論を前に進めるには具体的な行動しかない。別に思想は関係ない。制度を廃止したいのであれば、彼ら抜きの人手不足対策と成長戦略を描き、実行するよう政治家に訴えるべきだし、実習生の待遇を改善したいのであれば、制度設計の見直し、運用の厳格化を行政に陳情するべきだ。市民からの冷静な圧力こそ、状況を打開する大きな力だと私は信じている。

またメディアにもお願いがある。報道する際、公益通報の窓口や支援団体の寄付口座や支援物資の送付先を載せてほしい。視聴数を上げる為に感情を煽る報じ方も問題だが、仕方ない部分も理解している。数秒、数行の告知でいいのだ。ジャーナリズムの良心に期待したい。

4.NPO、シェルターに支援を

上述した状況から、今後、実習生による犯罪は増えていくかもしれない。しかしその裏には制度の構造的欠陥があり、コロナ禍で彼らが追い詰められている現実がある。繰り返しになるが、それを無視した極論、感情論は何も改善しないばかりか、事態を更に悪化させる。

無職になっている元実習生の数や実情を把握するのは困難だ。しかし支援が無ければ、彼らが犯罪に走ってしまう可能性は日に日に増していく。

今まさに追い詰められている実習生達にできることもある。行き場の無い外国人を保護し、支援しているNPO、シェルターに対しての支援だ。このような施設で、同郷の仲間と共同生活を送ることが彼らの暴走を確実に防ぐことにつながる。

保護できる人数が増えれば、未然に防げる犯罪も増えるだろう。直接支援をしたい方もいるかもしれないが、残念ながら困った外国人を見つけても個人で助ける事は難しい。既に犯罪組織の一員になっているリスクもある。

筆者が知るNPOはこちら:日越ともいき支援会

NPO、シェルターの情報提供は筆者Twitterまで

もっと早く記事を書くべきだった、と私は激しく後悔していることをここに告白したい。こうなる可能性はコロナ禍で国際航空便が止まった時点で分かっていたからだ。でもまだ救える実習生と防げる犯罪被害はあると信じている。この記事が多くの人の目に触れ、冷静な議論と支援の輪が広がる事を切に願う。

*技能実習生の数は全てe-Stat内出入国管理統計より

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北村 泰

ベトナム語通訳・移民教育行政アナリスト。日本語ベトナム語バイリンガル、横浜国立大学中退。イデオロギーの戦いに終始する外国人を取り巻く議論と一線を画し、現制度の問題点と今後のあり方を発信。日橋塾代表。