自民党「3030」目標:73歳以上が勇退し女性候補者を増やせば実現できる

衛藤 幹子

自民党が2030年までに同党の女性候補者の比率を30%に引き上げる(略して「3030」)との目標を掲げた。表1は2000年以降の総選挙における自民党の候補者及び当選者とそれぞれに占める女性の人数(割合)を示したものだ。2005年の郵政選挙以降、2014年を除いて自民党の女性候補者の割合は7〜8%止りなので、30%は思い切った数である。

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表1 近年の総選挙における自民党の候補者/当選者、女性の人数(比率)

2000 2003 2005 2009 2012 2014 2017
候補者総数 337

(100%)

336

(100%)

346

(100%)

326

(100%)

337

(100%)

352

(100%)

332

(100%)

女性候補者 11 (3.3%) 11

(3.3%)

26

(7.5%)

27

(8.3%)

27

(8%)

42

(12%)

25

(7.5%)

当選者総数 233

(100%)

237

(100%)

296

(100%)

119

(100%)

294

(100%)

290

(100%)

281

(100%)

女性当選者 8

(3.4%)

9

(3.8%)

26

(8.9%)

8

(6.7%)

23

7%

25

(8.6%)

20

(7.1%)

(出典:総務省選挙関連資料)

勝ち目のない選挙区に追いやられてきた女性候補者

女性を積極的に擁立する際に関門となるが現職だ。自民党は多くの男性現職を抱え、彼らを押し退けて女性を立てるのは悩ましいに違いない。議席のない選挙区が多数ある野党とは事情が違う、と思う。

現職不在であれば、女性にも立候補の機会がある。それが勝ち目のない選挙区であればその可能性はさらに高まる。というのも、たとえ落選しても、女性なら何とかなるだろうという、時代遅れの観念が日本の政党にはまだ残っているからだ。また、新興政党が風に乗って議席を獲得しようと、泥縄式に候補者をかき集めるときも、女性に食指が動く。

選挙の候補者に占める女性の比率を党規約や国の法律で定める、「クオータ」と呼ばれる制度がある。いまや100以上の政党、50を超える国で採用され、そこで最も一般的な比率が30%である。20%だとやや存在感に欠けるが、40%ではハードルが高い。30%は目標として妥当な数値だ。10年間で目標を達成するという点も穏当にみえる。ただし、女性候補者を増やしても、当選者が少ないのでは意味がない。勝ち目のある選挙区に擁立する必要がある。では、いかにして当選確率の高い選挙区で女性候補者の割合を増やすのか。

ヒントになるのが、イギリスの労働党が1993年に導入し、1997年の総選挙で実施した「全女性候補者リスト(以下、女性リスト)」という方法だ。労働組合色の強い労働党は女性に不人気で、保守党から政権を奪還するためには女性票の獲得が必須であった。1992年の総選挙では女性有権者を惹きつけようと、前回の1987年よりも42人多い138人の女性を擁立した。しかし、またもや保守党に破れ、しかも女性候補者は勝ち目のない選挙区に追いやられたため、わずか37人しか当選できず、かえって女性有権者の反感を買ってしまった。

そこで、女性候補者を確実に当選させようと考案されたのが、議員が引退する選挙区と接戦区、それぞれの半数を女性に割り当てることにし、それを予め作成した女性リストの上から順に選んでいく方法であった。引退区は余程のことがない限り勝利する確率が高いし、接戦区も選挙戦次第で当選できる。97年の選挙では、労働党は159人の女性を擁立し、うち38人が女性リストから選ばれた。労働党は地滑り的勝利を収め、女性候補者はリストによる35人を含む102人が当選した。

73歳定年制を女性候補者増加の切り札に

先般、自民党では衆議院比例区73歳定年制をめぐって長老と若手の間でちょっとしたバトルがあったが、私はこの定年制を女性候補者増加の切り札として提案したい。もっとも、私の提案は比例だけでなく、立候補自体の定年、すなわち73歳以上のシニアにはご勇退いただくというものだ。

僭越ではあるが、自民党 党内派閥別 所属議員一覧を参考に自民党衆議院議員の年齢(2020年11月1日現在)を調べてみた(表2)。2030年には、現在63歳以上の方が勇退し、引退区は来年予定されている選挙から合わせて、ちょうど100になる。2029年では93、2028年88である。

表2 自民党衆議院議員63歳以上の内訳

年齢 80〜 79〜75 74〜70 69〜66 65 64 63
人数 3 12 37 28 8 5 7

さて、自民党の衆院選候補者総数を仮に350人としよう。30%の目標を達成するための女性の数は105人だ。これまでの実績から25人はすでに確保できていると仮定すると、新たに80人を擁立しなければならない。もし引退者の選挙区すべてを女性に割り当てると、2028年に目標は見事達成できる。実にシンプルで効果的な方法ではないか。当選確率の高い引退選挙区を女性に譲り渡すことには激しい抵抗があるはずだ。労働党が女性への配分を半数にしたのも、男性の反発を緩和するためであった。それでもなお、私は、半分を男性に譲るなどケチなことはせず、すべて女性で決める、この方法を下村政調会長にお勧めしたい。