高齢化でゼロ金利の時代は終わる

池田 信夫

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第3次補正予算の「真水」は19兆2000億円、来年度予算と合計で30兆6000億円になる見通しだ。これはGDPの約6%で、現在の需給ギャップにほぼ見合うので妥当なところだろう。しかし来年度以降、政府支出が増えると、どうなるかわからない。

日本でMMTに人気がある最大の(ほぼ唯一の)原因は、ゼロ金利がこの20年続いていることだろう。MMTは金利はつねにゼロと想定する理論なので、「政府はどんどんお札を印刷すればいい」というのは正しい。国債に金利が発生しない限り、財政赤字はフリーランチなのだ。

ゼロ金利は永遠に続くのか

しかしゼロ金利は永遠に続くのだろうか。その原因は民間部門が貯蓄超過で自然利子率(均衡実質金利)がマイナスになっていることだが、サマーズは、この原因は高齢化という先進国の宿命だという。他方Goodhart-Pradhanは高齢化で労働供給が減ると金利が上がり、インフレになるという。どっちが正しいのか。

図1 日本のISバランスの推移(内閣府)

家計の純貯蓄は、図1のように最近ではGDPの2%程度に低下した。これは年金生活者が貯蓄を取り崩しているためだ。他方で、企業の貯蓄超過はGDPの5%近い。つまり日本の貯蓄過剰の最大の原因は高齢化ではなく、企業の投資不足である。

IMFは日本の自然利子率をマイナス1%程度と推定しているが、そのうち高齢化による消費の減少などの影響はマイナス0.4%。最大の影響は図2でz-determinantと書かれている要因で、これは大ざっぱにいうと世界的な貯蓄超過の影響である。


図2 日本の自然利子率の推移(IMF)

その最大の原因は新興国の貿易黒字で、日本のメーカーが電機製品などをアジアで現地生産して輸入するようになったことである。デフレの最大の原因は、1990年代から中国や旧社会主義国の安い労働力が大量に供給され、製造業のグローバル化で国内投資が減ったことなのだ。

社会保障を含めると高齢化で貯蓄不足になる

しかし新興国の経常収支は2015年から赤字に転じ、中国の労働人口も減り始めた。世界的な貯蓄過剰の時代は終わり、今後は高齢化で貯蓄不足になると予想される。

これは実はRachel-Summersも同じで、図3のように先進国全体でこの40年に少子化・高齢化で自然利子率は約2%下がったが、社会保障支出(老人医療と年金)の増加で約3%上がったと推定している。つまり高齢化で金利は約1%上がったのだ


図3 先進国の自然利子率の要因(Rachel-Summers)

この社会保障の影響を多くの実証研究が見逃している。GDP統計では社会保障は政府支出として計上されるので、高齢化で消費が減ると思われているが、社会保障を含めると老人の消費は生産より多い。高齢化で貯蓄は減り、金利は上がるのだ。

世界的にもコロナで大量に国債が発行されたため、各国の中央銀行が金利上昇を警戒している。FRBはインフレ目標をオーバーシュートしても低金利を守る金利目標に転換した。日銀のイールドカーブ・コントロールも、実質的な金利目標である。

日本ではこの20年ゼロ金利が続いてきたので、金利のつく時代が来るとは信じられない人が多いだろうが、1980年代には長期金利は8%台だった。1%以下になったのは2010年代である。銀行もゼロ金利で巨額の国債を保有しているので、いま長期金利が1%になったら債務超過になる銀行が出てくる。

それを避けるために日銀が国債を買い支えると、マネタリーベースが大量に供給されてインフレになる。それが2%をオーバーシュートするかもしれないが、世界中が過剰債務になった今は金利をコントロールするほうが大事だ。

今すぐ金利が上がるわけではないが、コロナ対策で今年度100兆円以上の新発国債が発行される状況で、いつまでもマイナス金利が続くとは思えない。コロナが長期化すると、意外に早くインフレの時代がやってくるかもしれない。