「有罪判決」を受けた前駐仏教皇大使

バチカンニュースが報じたところによると、パリの刑事裁判所は16日、在フランスの前教皇大使 ルイジ・ベンツラ大司教(Luigi Ventura、76)に対し、複数の男性に対して性的暴行を行ったとして禁固8カ月の執行猶予付き有罪判決を言い渡した。

パリの刑事裁判所で有罪判決を受けた前在仏バチカン元教皇大使ベンツラ大司教(バチカンニュース独語版公式サイトから)

同大司教は2009年から19年の間、フランスのバチカン教皇大使を務めていた。同大司教はパリの前には1995年、ブルキナファソ、ニジェール、コートジボワールなどのアフリカ大使、1999年にチリ大使、2001年にカナダ大使などを歴任したバチカンのベテラン外交官の1人だ。

同大司教は「自身は罪を犯していない」と表明し、外交官としての特権を放棄して、裁判では無罪を主張してきた。判決を受け、同大司教は原告に対して1万3000ユーロ、そして法廷費用9000ユーロの支払いを言い渡せられた。同大司教が上告するかは目下不明。同大司教は16日の裁判には欠席した。

バチカン教皇大使とは、ローマ教皇の代理としてホスト国に駐在する外交官の立場で、通常の駐在大使と同様のステイタスだ。バチカンのアレッサンドロ・ジゾッティ報道官が昨年7月、 同大司教は外交関係に関するウィーン条約に基づいて外交官に与えられた特権(刑事裁判権などの免除)を公判が終わるまで放棄すると表明し、フランスの司法側に全面的に協力する意向を明らかにしたと述べていた。

被告の大司教側は当初、バチカン裁判所での公判を主張し、パリでの裁判には抵抗を示していた。バチカンでは2013年7月から、バチカン裁判所がバチカン職員が海外で犯罪を犯したり、その義務を蹂躙した場合、判決を下すことができるようになった。実例としては、2018年、ワシントン駐在のバチカン教皇大使顧問が児童ポルノグラフィ所持の容疑で裁判を受けている。

パリ検察庁は昨年3月、2人の男性から同大司教に性的に暴行を受けたという訴えを受け、捜査を正式に開始してきた。原告の1人によると、大司教が昨年1月中旬に開催されたパリのアンヌ・イタルゴ市長主催の新年会で、原告の若い男性(市長の国際関係担当)に対し性的接触を試みたという。同年5月、大司教は原告と会い、その後、警察側の要請を受けて尋問を受けている。フランスの複数のメディアによると、大司教は「私を貶める陰謀だ」と強調し、容疑を一蹴したという。

ちなみに、同大司教については、前任地でも同じような性的虐待ケースがあった疑いが浮かび上がっている。同大司教は昨年12月9日で役職停年の75歳となったのを受け、同月17日に正式に退位した後、バチカンに戻った。

南米出身のフランシスコ教皇が就任した直後、数カ月間、バチカンの外交を担当する国務省長官のポストが空席だった。そのポストに当時、様々な候補者の名前が挙がったが、その中にホンジュラスのオスカー・アンドレス・ロドリグリエツ・ マラディアガ枢機卿やワルシャワのセレスティーノ・ミグリオーレ枢機卿の他に、今回のベンツラ大司教(当時既に駐仏教皇大使だった)の名前もあったのだ。

当時、バチカンのナンバー2だったタルチジオ・ベルトーネ国務省長官(枢機卿)が絡んだ不祥事が起きたばかりだった(ミラノのカトリック系病院の副院長投身自殺やトニオロ研究機関の人事問題について)。それだけに、フランシスコ教皇は選考に苦しんだ。

フランシスコ教皇は教会の信頼回復のためにも、バチカン改革の核となる新国務省長官には腐敗やスキャンダルからクリーンな枢機卿を選出したかったが、一長一短でなかなか理想的な人物が見つからなかったからだ。幸いというべきか、フランシスコ教皇は現国務省長官、ピエトロ・パロリン枢機卿を任命した。

もしベンツラ大司教を選出していたら、今頃バチカンは大騒動になっていただろう。フランシスコ教皇は就任以来、高官人事ではミス人事が多かった。自身が新設した財務省長官に抜擢したオーストラリアのペル枢機卿は後日、性的虐待問題を追及されたし、列聖省長官に任命されたジョヴァンニ・アンジェロ・ベッチー枢機卿には、かつて国務省総務局長時代に財政不正問題があった。フランシスコ教皇の人を見る目はあまり芳しくない(「バチカンを揺さぶる3件の『事例』」2020年10月24日参考)。

それにしても、今年はローマ・カトリック教会総本山バチカンを取り巻く高位聖職者の不祥事が多く発覚した。今月17日に84歳となったフランシスコ教皇にバチカンを刷新できる力がまだ残っているだろうか。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年12月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。