コロナ不況対策が生む株価バブルの矛盾

米国ダウが史上高値の3万㌦を突破し、日本も日経平均が29日に30年ぶりの高値2万7500円(30日は小反落)をつけました。コロナ感染拡大による経済不況で貯蓄も底をついている人がいる一方で、実体経済と乖離した株価バブルで潤っている投資家たちがいます。

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金融緩和や財政出動によるカネがマネー市場にも流れ込み、バブルを作っています。カネを必要とする人たち、企業にカネがきちんと流れる仕組みは作れないものでしょうか。経済政策は狂ったままです。

世界の株の時価総額は史上初めて100兆㌦を超え、19年末比で17%も増えています。3月のコロナ暴落後、各国が一斉に不況対策に乗り出し、瞬く間に株価は回復し始めました。20年3月の底値で株に投資した人はすごい儲けを得ているのでしょう。

なぜコロナ不況下でバブルが発生しているのでしょうか。「いづれ景気が回復するので、株高は将来の景気回復を先取りしている」「FRB(連邦準備制度理事会)が2023年までゼロ金利を続けると言明しているので、投資家は安心して株式投資ができる」との解説が聞かれます。

そのほかにも、「ゼロ金利で利ザヤを稼げない金融機関が証券投資に傾斜している」「所得の低い階層は家計の節約志向を強めている。政府の給付金も消費でなく、貯蓄に回り、それがマネー市場に投資されている」といった解説もあります。

日本でも、1人一律10万円のコロナ給付金(総額12・7兆円)は結局、1万円程度しか使われず、残りは貯蓄に回った」(野村証券)そうです。支援が必要不可欠な人たちに30万円を給付する当初案だったのに、給付金を必要としない人たちにも支給した愚策もバブル生成を手伝っています。

さらに、日本では日銀がETF(上場投資信託)を45兆円も保有し、GPIF(年金積立金運用法人)も同程度、日本株を所有しています。買う一方の資産運用ですから、日本の株式市場では官製相場が形成され、売り買いが交錯することがありません。これもバブル発生の援軍です。

国別(日経新聞30日)にみると、米国株の時価総額は42兆㌦増(21%増)、日本は7兆㌦(1㌦=103円)増(10%増)だそうです。7兆㌦といえば、700兆円以上ですから、ぼろ儲けした投資家もいるでしょう。本来なら金融資産課税を強化し、コロナ対策向けに回収したいところです。

日銀も10年前から始めたETF(上場投資信託)の保有で、10兆円もの含み益があるそうです。本来なら、売却して巨額の財政赤字に苦しむ国庫に納めたい。そうしないのは、株高維持が実質的に、異次元金融緩和策の目的の一つになってしまっているからです。

最大の投資家である日銀が売却を開始すれば、日本株は急落するでしょう。株価は一部の取引で決まる相場を全体にあてはめたのが時価総額ですから、一部の売りでも時価総額は減ります。動くに動けない。

米国には資産格差の推計がいろいろあります。「上位1%の資産富裕層が金融資産の50%を所有」「資産保有の上位10%が株・投資信託の90%を保有」「所得最上位の1%が所得全体の18%を取得」などです。

日本の資産格差は米国ほどでなくても、「資産バブルで儲ける富者はますます富み、貧者はますます貧する」とはいえます。野党はデータを掘下げ、コロナ対策の歪みを追及すべきなのに、政権与党のあら探しばかりに没入しています。これでは国民の支持率は上がりません。

格差拡大は人道的な問題にとどまらず、経済の長期的停滞の原因になります。富者は資産の拡大に励み、消費に大してカネを回す必要のない人たちです。貧者は節約に励み、消費は委縮を続けます。

コロナ危機はマネー資本主義の悩みの深みをあばきました。日本の実質経済成長率は「1956年→73年が9%」「74年→90年が4%」「91年→2019年が1%」です。経済成長によって財政赤字を減らすことは、中程度の経済成長率があればできました。

日本は30年間の平均で1%の成長しかできなかった。今後、日本がどうやってかつての成長力を取り戻していくのでしょうか。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2020年12月30日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。