2021年の年頭に当たって、新型コロナ感染拡大の現状把握と新年短期予報です。
連載㉒、連載㉓で解析している11カ国中、日本とイギリスを除く国々は、予測通りの推移、もしくは予測より早くピークアウトしています。日本はピークアウトの兆候が見えず上昇中、イギリスではクリスマス後、変異種によって1日1万人のペースで陽性者が増大しています。この2カ国が心配ですが、数値を把握し、他国とも比較してみましょう。
ピークアウトの判定は難しいところがあります。本連載では、陽性者や死亡者のデータで、週変動の最小値もしくは最大値をつないだ線にピークが見えたときに、ピークアウトの兆候としています。そもそも、ピークアウトがなぜ起こるのか良く分かりません。
1.不分離ツインピーク、日本、ドイツ、スウェーデン、米国
まず、分離できないふたつのピーク(不分離ツインピーク)の重なりとして解析した日本、ドイツ、スウェーデン、米国の4カ国です。以下の図では、左が線形表示、右が対数表示で、陽性者(赤)、死亡者(青)、実効感染者(紫)と各波の成分が示してあります。
対数表示は、一般の人には馴染みのないグラフですが、陽性者と死亡者のように桁数が一桁以上離れている者同士の傾向を同じグラフ内で比較する時に非常に便利です。また、線形と対数のグラフの両方を対比することは、傾向を掴む上で重要です。
まず日本です。上昇フェーズがまだ止まりません。週最低値をつなぐ線は最後に急上昇しています。12月31日のデータが出た段階で、前回のピークアウトの設定日の12月14日を8日後ろにシフトして再び全体を再調整しています(前回の予測が青の破線です)。正月休暇で感染の縮小が見られることを期待しています。
次にドイツです。前回の予測より早くピークアウトの兆候が見えたので、4日ほどピークアウトの設定を前にシフトしています(前回の予測が青の破線です)。最後の急激な下降はクリスマスです。以下の図では、12月25日のクリスマスの日に緑の矢印を示しています。
ドイツの最近の特徴は死亡率が高いことと、日毎の死亡者数の急激な上昇です。人数的にも医療機関は大変なことでしょう。ただ、ピークアウトの兆候は見えているので、この調子で収まるだろうと予想しています。
次は、スウェーデンです。スウェーデンは、ピークに向けての上昇が予測より小さかったので、少し小さいピークを再設定しました(前回の予測が青の破線です)。スウェーデンの最近の死亡者の下降しているデータは、日数が経つと改訂されるので、今は無視してください。スウェーデンにもクリスマス休暇の影響が見られます。
次は米国です。米国も前回の予測より早くピークアウトの兆候が見えたので、5日ほどピークアウトの設定を前にシフトしています(前前回の予測が青の破線です)。陽性者に見えるふたつの極小日は、感謝祭(青の矢印)とクリスマス(緑の矢印)です。米国では、感謝祭休暇とクリスマス休暇の影響が見られます。
2.変異種、イギリス、オーストラリア
イギリスの変異種は、従来種に比べて、感染力が1.7倍、実効再生産数(R)で0.4上昇すると言われています。そこで、本解析での実効再生産数をチェックしたところ、図5の第2波の上昇期でR=1.59、第3波の上昇期でR=1.99、ちょうど0.4の差でした。
イギリスでもクリスマスの影響(緑の矢印)が見えますが、クリスマス明けに急上昇しました。これからどこまで上昇するか分かりませんが、前回の予測より3日ピークアウトの日を後ろにシフトしました(前回の予測が青の破線です)。R=1.99と大きいので、3日のシフトでも1日1万人ずつの感染者増加があります。
イギリスの変異種は、既に多くの国に拡散し確認されています。前回の解析では、オーストラリアに確認され、同時にそれまでほぼ完璧に感染を抑え込んでいたオーストラリアにクラスターが発生したので、その時は変異種かどうか確認できませんでしたが、図6の青の破線の様に急激な上昇の予測線を描きました。その後、クリスマスの影響もあってか、陽性者は収束しているように見えますので、ピークアウトの日を11日戻して、小さなピークにしました。
その後、新聞等の情報によると、オーストラリアへの変異種の入国者は7人で、全てホテルに隔離中で市井感染はないと報告されています。変異種の入国による感染拡大の先行事例にはならないようです。
3.分離型ピークの出現、フランス、ベルギー、スペイン
次のフランス、ベルギー、スペインは、前回の解析の時は、新しい波の兆候が見えてきた国々です。その後、フランスとベルギーは、予測線に沿って上昇フェーズでしたが、クリスマス休暇で一段下降しました。クリスマス後、どの位上昇フェーズが戻るか興味深いところです。
スペインはより強い上昇フェーズにありますが、クリスマス休暇の効果がはっきり見えていて、その後再び上昇しています。
4.分離型ピークの成長、ブラジル、イスラエル
ブラジルとイスラエルは、前回の解析時点でも、分離型のピークがだいぶ成長していたのですが、ブラジルは予測より早くピークアウトの兆候が見えました。図10では、ピークアウトの日を9日前にシフトしています(前回の予測が青の破線です)。最後の落ち込みがクリスマス休暇の影響です。
イスラエルは、予測線通りに上昇してきています。予測線通りにピークアウトするかどうかは分かりませんが、早いピークアウトを期待しています。イスラエルはユダヤ教ですから、クリスマスの影響はもちろん全く見えません。
5.まとめ
上昇中の日本、イギリスの今後の動向が心配ですが、他の国々はある程度予測範囲にあるのではないかと思います。
ドイツ等、今回の第2もしくは第3波に対して、ロックダウン等の新たな対策を取った国があります。それらの対策の時期と陽性者数の変動時期を検証したのですが、明確な相関の印は見られませんでした。
一方、クリスマス休暇の効果は、日本、イスラエルを除いてよく見えます。もちろん休暇によるPCR検査数の変化が主な原因でしょうが、感染者の実数としてもデータに現れてきたのは少し驚きでした。
現在、ワクチンの接種が始まっています。特に、アメリカ、イスラエル、イギリスにおいて、短期間で大規模な接種が始まっています。2021年、次回の報告にワクチンの効果が表れていることを期待しています。