きのう一都三県の知事が政府に緊急事態宣言の発令を求めたが、これは社会に大混乱を引き起こすだけで、肝心の医療の逼迫という問題を解決する効果がない。問題は飲食業を休業させることではなく、医療資源が偏在していることである。境田正樹氏によれば、
国内の約8400の病院のうち、新型コロナ患者受入可能医療機関は1700機関、また、ICU等を有する医療機関は1007機関ありますが、実際に新型コロナ患者で人工呼吸器、 ECMO又はその両方を使用した患者を受け入れている医療機関は307機関に過ぎません。この307の医療機関のうち、特に大都市圏の医療機関の新規重症患者の受入キャパシティがほぼ底をついてきたというのが今日の状況です。
コロナ患者の受け入れ可能な医療機関1700のうち、18%の307しか患者を受け入れていない。その大部分は公立病院である。理由は明白だ。人員や設備があっても、民間の医療法人ではコロナを受け入れると院内感染の経営リスクが非常に大きいからだ。
以前に私の記事でも指摘したように、医療法では行政が民間病院に命令できない。感染症法でも都道府県知事は感染症指定医療機関に受け入れを「勧告」できるだけなので、病院は拒否できる。医師法の「応召義務」でも、2類相当の感染症は免責事項になっている。
このため民間病院が拒否すると、行政は余っている医療資源を動員できない。病院は使命感で受け入れているのだが、患者43人が院内感染で死亡した東京の永寿総合病院のように、コロナで院内感染が出ると病院経営が破綻する。それなら法的義務はないのだから受け入れはやめよう、というのは合理的な経営判断である。
これは病院の倫理の問題ではなく、医療制度の問題だ。院内感染は昔からあり、年間8000人が死亡していると推定されるが、ニュースにはならない。しかしコロナに限っては1人2人の院内感染でもマスコミが大騒ぎするので、経営のダメージが大きい。
だから指定感染症を解除しても、受け入れる病院は増えないだろう。むしろ現在の指定医療機関の中で、受け入れを増やす方法を考えたほうがいい。一つは境田氏の提言するように院内感染の損失を国が補償することだが、これは他の業界と同列に考えると、病院だけ損失補償するのはおかしいということになる。
現実には院内感染が起こる確率は低いので、すべての病院に財政支援する必要はない。国が院内感染保険のような制度を創設してはどうだろうか。たとえば健康保険から1兆円の原資を出資して基金をつくり、院内感染が出た病院にはそこから患者数に比例して補償金を出す。これなら健康リスクを補償するという健康保険の趣旨にもあうので、特措法の改正でできるのではないか。
この問題は複雑なので、投稿を募集する。医療や法律の専門家だけでなく、一般読者の意見も歓迎する。議論はアゴラサロンで。