欲しいのは住宅であって、住宅ローンを欲しい人はいない。住むという機能を中心にして考え直すと、住宅の所有は必須の要件ではなく、賃貸でもよい。所有よりも賃貸が合理的選択だということになれば、もはや住宅ローンは不要である。
さて、住宅ローンの申し込みがあったとき、金融機関は、どう対応すべきか。真の顧客の利益の視点にたち、徹底的に家族構成、所得、財産の状況等の諸事情を検討したとき、賃貸こそ最善の策という結論に達したら、貸せるにもかかわらず、住宅ローンの申し込みを断って、賃貸を勧めることこそ、真の顧客の利益に適うことになる。ならば、金融機関に住宅仲介を兼業させるべきか。
ところで、超高齢化社会においては、従来のように、人間を中心に考えて、住宅を耐久消費財として使い捨てるような無駄はできないから、住宅を中心に考えて、人口動態に応じて、半永続的に使える資産性のある住宅を供給していくことになる。故に、住宅ローンも、現状の事実上の消費者ローンから、住宅の資産価値を担保にしたローンに変わる。
住宅の資産価値を前提にしたローンとしては、リバースモーゲージがある。リバースモーゲージは、住宅の売却代金によって、元利合計を一括弁済する仕組みである。高齢者は、生前は、リバースモーゲージの弁済をせずに、消費に充当して豊かな老後生活を送り、死後、住宅の価値によって、一括弁済できるということである。
リバースモーゲージは、経済的な仕組みの実態として、ローンというよりも、最終的に、実質的な処分権が金融機関に移転することを考えれば、金融機関が住宅を分割払いで取得していくことに近く、ローンを住宅仲介に直結させたものといってもいい。ならば、統合してしまって、住宅仲介業者がローンを供給しても、金融機関が住宅仲介を行っても、どちらでもいいはずである。要は、顧客の利便性の問題である。
また、住宅市場の構造改革によって、資産性のある住宅が固定化し、人が家族構成等の利便性に応じて住み替えていくようになれば、金融機関にとって、顧客に対する利便性の提供とは、住宅の借り手なり買い手なりを見つけてくることになるはずである。
金融機関に住宅仲介をさせるためには、別途、ノンバンクを設立させ、そこに住宅ローン業務を移管して、住宅仲介を兼業させればいいのだが、既存の住宅仲介業者からすれば、金融機関が参入してくることは、優越的な地位に基づく力の行使として、認め得ないだろう。
しかし、国土交通省においては、日本の将来を展望し、国民の利益の視点で、望ましい住宅市場のあり方を検討しなければならないのだから、住宅仲介業者の保護という論理は掲げ得ない。同時に、金融庁においても、金融機関の利益の視点では、金融制度改革など、なし得るものではない。
あくまでも、住宅をもつ人、住宅に住む人の視点にたって、従来の枠組みを超えた新しい住宅市場の形成がなされればいいことである。
森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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