ガンダムから政治まで、成功の鍵は「女性の支持」

衛藤 幹子

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新年早々、昨年の話で恐縮であるが、12月24日、NHKBS1のスペシャル番組「ガンダム誕生秘話 完全保存版」を観た。ご想像に違わず、ガンダムのファンではない。テレビを付けたらたまたま番組に行き合ったというだけだ。それでも観てみようと思ったのは、横浜の山下ふ頭に動くガンダムが登場したというニュースに、老いも若きも男性諸氏が興奮して大騒ぎしていたので、彼らをここまで夢中にさせるガンダムとは何だ、と好奇心を掻き立てられたからである。

番組は制作陣へのインタビューで進められたが、富野由悠李監督の証言に興味深い発言があった。アニメの番組視聴率が低迷するなか、富野監督は若い女性たちの間にジワジワと人気が広がっていることを知り、「これはイケる」と感じたと言う。続けて、監督は「(戦闘もの)アニメもこれからは女性の支持を得ないとダメです」と力説した。家族の物語やロマンスの要素が女性ファンを惹きつけたようだ。

マーケティング戦略における女性の重要性はすでに常識である。グローアップマーケティングの谷本理恵子代表によると、「日本のみならず、世界の購買決定権の8割は、女性が握っている」らしい。谷本氏はさまざまな角度からその理由を挙げているが、なかでも私がなるほどと納得したのが、女性の「口コミ」力であった。

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女性は仕事仲間だけでなく、地域社会、子どもの学校や塾、習い事、自分自身の習い事やボランティア活動など幅広いコニュニケーションのネットワークを持ち、情報交換の機会が非常に多い。こうしたネットワークを通して、「良い噂も、悪い評判も、どんどん『口コミ』として拡散されていく」と、谷本氏は指摘する。口コミは女性たちの商品選択を左右し、彼女たちの選択は夫や子どもにも及ぶ。女性の支持を欠いては商品は売れないということだ。

大学教育も然り。日本の大学進学率(2018年度)は男子の56.3%に対し、女子は50.1%と、男子よりも女子の大学進学の潜在需要が高い。しかも、女子の場合、8.3%が短大に進学しており、この短大進学者は4年制を選ぶ可能性が高い層だ。少子化のため大学進学者数が伸び悩む大学にとって、女子進学者は有望なマーケットと言える。しかし、女子を惹きつけるには、それなりの工夫が必要だ。学習内容の魅力のみならず、大学のイメージやキャンパスの雰囲気も大切だ。

私の勤務校でも、名前に国際のつく学部や学科の新設、校舎の改築などに力を入れてきた。なかでも、トイレは女子に選ばれるための軽視できない条件の一つらしく、校内トイレがデパート並みに改装された。最近では、女子学生もかなり増え、キャンパスが生き生きとしてきた。女子学生の増加は大学運営にプラスの効果をもたらしているようだ。

女性をめぐるこうした傾向は政治にも及び始めている。私は以前の記事「『恐るべき女性票』ジェンダーギャップで見る近年の選挙戦」で、都知事選の小池百合子氏の勝利や大阪都構想の否決に女性票が少なからず貢献したこと、また女性の自民党支持率が有意に低い一方、支持政党のない女性の割合が男性よりも10ポイント以上高いことを述べた。そこで、仮に自民党が女性票を今よりも10%増やすことができれば、政権維持は磐石だ。

他方、立憲民主党がこの女性票を獲得すれば、いずれ政権交代に近づくことができるかもしれない。事実、2009年の政権交代では女性票が民主党の勝利に少なからず貢献した節がある。それまで民主党は支持率において常に男性が勝り、女性票を取りこぼしてきた。ところが、2009年8月25日発刊の朝日新聞によると、選挙前の世論調査では、民主党を支持する女性が自民党のそれを5ポイント上回り、初めて女性の支持取り付けに成功した。

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投票行動におけるジェンダーギャップは元来のものなのか、あるいはある時期からみられるようになったことなのであろうか。憶測に過ぎないが、女性の社会進出の進展とともに生じてきた傾向だと考えられる。男性中心の社会組織に放り込まれた女性にとって、組織の仕組みや慣習は悉く使い勝手が悪いうえ、セクハラやレイプなど性暴力に晒される機会も多い。しかも、家庭生活や子育てと仕事の両立は並大抵のことではない。社会進出した女性たちには男性とは明らかに異なる制度や政策が不可欠だ。

ところが、政治はこうした女性のニーズに未だ十分に応えていない。政党は、旧態依然、相変わらず男性中心の組織と文化で運営され、女性は付け足しのように取り扱われていて、自民党にも、また野党にも共感できず、思いを託すこともできない。9つも政党があるのに、5割から6割の女性に支持政党がない。まるで「政党難民」だ。彼女たちの「難民」状態を解消することは政党の責務であろう。

谷本氏のマーケティング戦略に従うと、女性支持者の増加は男性支持者の増加に結びつく。つまり、女性からの支持を獲得することが党勢拡大への近道というわけだ。2021年の政治、勝利の鍵は「女性の支持」である。