緊急事態宣言は回避可能!医療機関への損失補償は杉並区の成功に学べ --- 松本 光博

ゲストオーサー

いわゆる「医療崩壊」を防ぐための重要課題である新型コロナウイルス病床の確保に関連して、新型コロナ重症者用対応病床数を短期間でいかに拡大するかについての具体策について、弁護士、東京大学理事(病院担当)の境田正樹氏が「新型コロナ 緊急事態宣言は回避できないのか」という記事で述べられていました。

onurdongel/iStock

記事内で提案されている「赤字が出た場合の公的資金による損失補償」というスキームは、実は杉並区独自の施策として一般財源を用い、昨年から実施しています。「赤字が出た場合の公的資金による損失補償」という政策効果について、自治体議員の立場からご紹介させていただき、成功事例を基にこのスキームを早期に全国展開することを私からも提案したい。

前提として、境田氏の問題意識は重症病床数の拡大にありますが、杉並区の施策は重症患者に特化した病床確保を目的としたものではありません。感染拡大初期から杉並区の新型コロナウイルス感染者の受入れを行っていた第二種感染症指定医療機関の豊島病院が3月下旬に満床となったことを受け、区内医療機関での入院受入れが開始されました。

杉並区の独自施策はそのような状況下、区内の基幹4病院に新型コロナウイルス感染者の受入れを集中させることで、新型コロナウイルス感染疑いの患者が小規模医療機関を訪れることなどを防ぐ目的で行われました。新型コロナウイルスに関する医療的知見の獲得にしたがって対象を変容させながら活用された入院病床ですので、必ずしも重症患者用の病床を確保するための施策ではありません。

しかし、境田氏の記事に紹介されている医療機関側が新型コロナウイルス重症患者の受入れを拡大できない理由は、当時の杉並区内基幹4病院が抱えていた事情と共通しています。病院経営者の立場に立てば、地域医療の担い手として新型コロナウイルス重症患者の受入れを積極的に行いたいという「情」の部分と、それによって巨額の損失が発生し病院経営が破綻するリスク、自身だけでなく医師や看護師の生活や、ひいては地域医療の受益者である新型コロナウイルス感染者以外の患者に与える不利益を考慮する「理」の部分の板挟みとなり、蛮勇を振るわせるに至らないのも頷ける話です。

そういった事情を捉え、杉並区では昨年4月、「基幹4病院を一定期間、公立病院に準ずる立場として扱う」とも表現できるような予算措置が行われました。新型コロナウイルス感染患者を受け入れることで減収となる収入額と、過去 3 年の平時における収入の平均額との差額相当分として試算された、1病院あたり月額約1 億2,800 万円から最大約2 億8,000 万円の補助を行い、病院経営を支えるという事業(総額22億2,900万円)を含む補正予算(令和2年度杉並区一般会計補正予算案(第1号))を執行しました。

この補助に対する会計監査も行われており、現在区職員が中心となり、公認会計士等の助力も得ながら、補助が適正に病院経営に活用されたのかを精査しているところです。経営難によって、例年以上の奮闘にもかかわらず、ボーナスが削減されてしまった医療従事者の怨嗟の声なども報道経由で耳にしているところではありますが、これらの病院では冬季のボーナスも例年通り支給されたことが議会で答弁されています。

新型コロナウイルス感染症によって経営難に陥っているのは医療機関だけではなく、公的資金の注入によって特定業種を守ることに関しては適切な説明責任が必要と考えます。医療機関が担っている公益性は多くの国民に理解されていると感じている一方、それだけに依拠するのではなく、監査の仕組みもあらかじめ組み込んだ制度設計が重要と考えています。今後同様の取組を進められるにあたっては、この点にも留意いただけると幸甚です。

事業の効果として、患者受入れ病床数は3月下旬には4床だったところから、4月には68床と大幅に増加し、5月に最も多く病床を確保したときは79床となったことが杉並保健所長の議会答弁で明らかになっています。この事業については、議会での審議に先立ち4月13日に区長記者会見で補正予算の内容が説明され、4月20日の臨時議会で可決されていますが、補正予算案に組み込まれることは関係機関の連絡会等で察知できていた部分もあると思われ、予算が成立することを前提とした素早い動き出しのもと、短期間で病床数を大幅に増やすことができたものと考えられます。

以上の通り、杉並区の事例から、「赤字が出た場合の公的資金による損失補償」によって、新型コロナ重症者用対応病床数を短期間で拡大することは可能であり、緊急事態宣言の発出によらずとも「医療崩壊」を防ぐことができると考えます。国や都道府県の関係者にご検討いただければ幸いです。

 

松本 光博   杉並区議会議員(日本維新の会)
1983年生まれ。早稲田大学法学部卒業後、株式会社リクルートに入社し、「SUUMO(スーモ)」で約9年間勤務。その後もITの営業部門に従事。2018年末に生まれた双子の男の子と妻の4人家族。2019年4月の杉並区議選で初当選。公式サイト