ICTを活用して教育をより良くしようと考える、様々な関係者が集まった組織「ICT CONNECT 21」が、1月14日にオンライン教育事例を紹介するセミナーを開催した。
コロナ第一波の頃、初等中等教育でのオンライン教育実施率は低かった。文部科学省は、2020年6月23日時点で、「同時双方向型のオンライン指導」は15%だったと報告している。
第三波が襲い、次の波も来るかもしれない今、オンライン教育の普及は重要な課題である。このセミナーで紹介された二つの事例は、オンライン教育の全国展開に役立つ。
熊本県高森町教育委員会の古庄泰則氏は「熊本県高森町の遠隔・オンライン教育」と題して講演した。高森町の人口は約6300名、児童生徒数はおよそ450名である。町長が「教育の情報化」をマニフェストに掲げていたので、教員もICT活用の研修を受けていた。各学校にはCIO(学校教育情報責任者)とCIO補佐官が指名され、CIOは校長だった。一人一台の端末整備は既に完了し、遠隔オンライン教育も6年目を迎えていた。
コロナによって全児童生徒を対象とするオンライン教育が求められたため、家庭にWiFiルータを配布した。光回線を整備し回線使用料は町が負担した。
オンライン教育が始まった後は、学校間で経験と情報を共有し、直面する課題を解決していったという。各学校のCIO、CIO補佐官がもともと協力しあっていたので、コロナ下でも彼らが経験と情報の共有のハブになったそうだ。
栃木県那須町教育委員会の星野尚氏は「少しずつ育てて実現していく遠隔教育」と題して講演した。町長は2016年に「一人一台端末」を掲げて整備を始めていたという。那須町にも首長のリーダシップがあった様子がわかる。また、教員が参加するSNSコミュニティが存在し、ちょっとした疑問でもすぐにチャットし、皆で解決しているそうだ。これも、学校間での経験と情報の共有の仕組みと言える。
コロナのような状況が起きると、教育に積極的な家庭と、そうでない家庭の教育格差が拡大する。この格差をできる限り縮めるために、教育委員会が積極的に動く必要性を痛感したと星野氏は語った。
教育を進めるために重要なポイントの一つが、教員と児童生徒、児童生徒間のコミュニケーションの確保である。コロナでコミュニケーションが遮断された結果、「学校に行きたくない」という気持ちを持つ子どもが出てきた。オンライン教育を提供したところ、教員と児童生徒、児童生徒間のコミュニケーションが生まれ、「学校は楽しい」という感想が増えてきたそうだ。
二つの事例に共通するのは、首長のリーダシップと、学校間での経験と情報の共有の仕組み作りである。
情報社会の今では、教育に熱心な家庭は子供の教育にICTを活用するだろうが、それは家庭間での格差拡大につながる恐れがある。これを少しでも縮めるためには、首長が主導して、学校教育の情報化を進めるのがよい。
しかし、教員の全てがICTを活用した教育に通じているわけではない。それを支えるのが教員間でのコミュニケーションを通じての経験と情報の共有である。
これらの教訓は、これからオンライン教育を進める各地の参考になる。