18日(月曜)からは、すべての国・地域からの渡航者に新型コロナウイルスの検査の陰性証明の提示が義務となる。これまでは、特定の国からの入国では自主隔離を免除していたが、今後はすべての渡航者が10日自主隔離する必要がある。
余分の注文分はどうなる?
英国では続々と接種者が増えているが、実際にメーカー側からどれぐらいの量のワクチンが届けられているのか・届けられる予定なのかについて、英政府は公にしない方針だ。
13日、自治政府があるスコットランドで、春ごろまでのワクチン入荷予定をウェブサイトで公表したところ、中央政府(ロンドン)から要望があって、情報を取り下げる事件があった。ロンドン政府は「セキュリティ上の理由」、世界中でワクチン争奪戦が始まりそうな今、「英国にはこれだけ運ばれているのか。それでは、自国にもっとほしい」という要望が出ることで「メーカー側にプレッシャーをかけたくない」などと説明しているという。
筆者が素朴な疑問を感じるのは、「全国民が接種を受けられるほどの量を確保している場合、余分となるワクチンをどうするのか」、である。
英政府が準備した、ワクチン配布計画書を見ると、どのメーカーにどれぐらいの回数を注文しているかがわかる(計画書の12ページ)。
表の左から2番目がメーカー・開発者の名前だ。その次が注文回数である。
英国で接種が進んでいるのは、オックスフォード大学とアストラゼネカのワクチンとファイザー・ビオンテックのワクチン。モデルナのワクチンも使用認可が下りているが、まだ接種には至っていない。
この3種のワクチンをどれぐらい注文したのかを見てみる。
それぞれ2回を1セットとしており、例えばアストラゼネカは1億回分なので、5000万人分。ファイザーは4000万回分で2000万人分。モデルナは1700万回分で、850万人分。全部合計すると7850万人分となる。英国の人口は約6700万人なので、この3つだけで総人口をカバーできる計算となる。
そのほかのワクチン(治験中)の注文数は、合計で2億1800万回分。すべての注文を合わせると、3億6700万回分になる。
ただし、アストラゼネカに1億回分注文しても、すべてが一度に納品されるわけではない。ほかのワクチンも同様で、「3つのワクチンがあるから、これで国民全体をカバーできる」として、安心してはいられない。ほかの複数のワクチンの注文分も押さえておくことは重要だろう。
しかし、それでも、いつかは英国に住む人のほぼ全員がワクチン接種を終了する日がやってくる。
そこで出てくる疑問は:
(1)いつが「英国内の需要は満たされた」という時期になるのか。その基準は?例えば、70歳以上の高齢者を一巡した時などに?
(2)その前の早い段階で、ほかの国にまわすべきなのか。例えば注文数が国内に住む人の数を大幅に上回る現段階でそうするべきなのか
(3)ほかの国に提供する場合、「売る」のか、それとも「寄付」するのか
(4)個別の国に提供するのか、あるいは何らかの組織に預ける形にするのか
など。
14日、英ニュース週刊誌「エコノミスト」のウェビナーを見ていたが、同じ国の中でも「誰に先にワクチンを接種させるか」は問題となり得るという。英国の場合は高齢者を優先順位の上にあげているが、人口構成で若い人が多い国は若い人からという選択肢もあり得る、という発言があった。
事態は流動的で、まだ不確定要素がいっぱいだが、英国がたくさん注文した分を今後どうするのかを注目したい。
(ブログ内容は、常時、更新します。)
編集部より:この記事は、在英ジャーナリスト小林恭子氏のブログ「英国メディア・ウオッチ」2021年1月16日の記事を転載しました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、「英国メディア・ウオッチ」をご覧ください。