行政DXの道のりは遠い

2021年01月24日 06:00

住民から市役所に手続きに必要なデータを送信し、市役所はそのデータを受けて住民にサービスを提供する。そんな行政に変革していくのが行政DXである。

SasinParaksa/iStock

行政DXは住民にも市役所にも利益をもたらす。手続きのためにわざわざ市役所に出向く住民の手間暇が減る。住民からの手書きの申請書を、市役所職員がデータ化する作業が不要になる。この転記に間違いがないかを、他の職員が再確認するといった作業もいらない。こうして、職員は住民へのサービス提供に注力できるようになる。

その先には、申請しないでも該当する住民を洗い出し、それらの住民に行政サービスを提供する時代が待っている。

こんな希望を抱いて、住民からの申請書の扱い方について、いくつかの市役所を調べてみたが、驚きを禁じ得なかった。

鳥取県鳥取市は「市民課申請書ダウンロードサービス」を提供している。窓口で提出する申請書類をあらかじめ自宅で入手できるというのだが、こんな注意書きがあった。

(自宅で印刷した)申請書等には、ボールペン・インクペン等(鉛筆不可)で必要事項に手書きし、必ず自署してください。パソコン等による印字出力では受付できません。

鳥取市のサービスは、単に申請書が事前に入手できるというだけである。住民は手続きのために市役所に出向く必要があるし、職員は手書きの申請書をデータ化しなければならない。

静岡県三島市では子育て支援の申請書がダウンロードできる。WordやExcel形式で提供されているので、自宅のパソコンからデータを打ち込むことができる。この点は鳥取市よりも優れている。しかし、たとえば銀行口座番号を1桁ずつ別の枠に記入する「ネ申エクセル」形式なので、入力は面倒で仕方がない。

申請書が完成すると、印刷して市役所に持参する。その際の注意書きは次の通りである。

窓口への申請の際には、記入不備等に備え再記入に必要な印鑑等(押印が必要な書類の場合)をご持参ください。

三島市は、申請はあくまでも書面で受け付けるという姿勢を変えていない。記入不備を修正したのち、職員が再度データ化するわけだ。

鹿児島県鹿屋市でも、子育てに関する申請書が事前に作成できるシステムの実証実験を始めたそうだ。ウェブフォームに必要事項を入力すると、QRコードが発行される。ここまでは、「ネ申エクセル」形式よりずっとまとも。しかし、その後、住民は市役所に出向かなければならない。

(それを)窓口にあるタブレットにかざすと申請書が印刷されるシステムの実証実験を行います。

この程度のことに、なぜ実証実験が必要なのだろう。とても不思議だが、埼玉県川越市も同じシステムの実証実験を行っている最中である。

住民が手続きに必要なデータを自ら作成し、それを市役所に送信すればサービスが受けられるようになる。冒頭にこのように書いたが、住民が手続きに必要なデータを自ら作成しても、その先にある「申請書印刷」という関門で、折角のデータが遮断されるのが現状である。

行政DXへの道のりは遠い、と言わざるを得ない。

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ICPF理事長、東洋大学名誉教授

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