バイデン氏は、就任初日から22日までに約30本の大統領令に署名しました。
初日の17本についてはこちらでご説明した通りです。
21日には、公共衛生上で必要とされる持続的なサプライチェーンの構築を掲げ、ワクチンの早急な配布を目指し国防権限法を発動、州政府・地方政府によるワクチン提供へ向けた支援、ワクチンや治療薬の研究開発などを目指す大統領令を10本発動しました。
10本のうち、日本人にも該当するのが米国内・海外渡航者への安全策強化です。ここには①公的輸送機関(地下鉄、バス、航空機など)でのマスク着用義務化、②海外からの入国者に対し、3日以内の陰性証明提出を義務化、③入国後の自主隔離を義務化――などを盛り込みます。
22日には、米連邦政府職員の保護、救済策強化に関する2つの大統領令に署名しました。前者では政府職員の団体交渉権を効率化を通じ雇用や解雇を容易にしたトランプ政権時代の大統領令の撤回の他、政府職員の最低賃金を15ドルへの引き上げ検討が含まれます。後者では、農務省に補助的栄養支援プログラム(SNAP、フードスタンプ)の申請簡素化と内容を充実化を検討するよう指示、労働省には既往症など健康上の理由で就業を拒否した労働が失業保険を受けられるよう保証体制を整備するよう命じました。さらに、2020年3月に成立した景気刺激策や20年12月に可決した追加経済対策の個人支給を受け取っていない米国民の受給支援が含まれます。
バイデン氏の選挙公約通りの迅速な行動は、就任式を視聴した米国民の期待を裏切らなかったと言えるでしょう。新型コロナウイルス感染拡大を受け、入場規制が強化されたとはいえ2017年比で視聴者数は4%増(100万人増)の3,987万人となりました。放送局別の内訳は、以下の通り(平均値のため、合計は3,987万人とはらず)
・CNN 990万人
・ABC 766万人
・NBC 689万人
・MSNBC 653万人
・CBS 607万人
・FOX News 274万人
このうち、CNNは2017年比で3.8倍増、MNBCは4.7倍増を記録しました。逆にFOXニュースは、2017年に過去最多を記録した1,050万人から2021年は74%も急減した格好です。国歌斉唱をレディ・ガガが、その他パフォーマンスに2020年のスーパーボウルで花を添えたジェニファー・ロペス、さらにカントリー歌手の大物ガース・ブルックスが登場しましたが、保守派層の多いFOXニュース視聴者は我関せずだったもようです。
バイデン氏の就任式では、米議事堂襲撃事件の影響で州兵2.5万人がワシントンD.C.に動員されるほど厳重な警戒態勢が敷かれたことでも話題になりましたね。就任式での視聴者が増加したという華々しいニュースの陰で、州兵のうち約1%に相当する200名が新型コロナウイルスに感染してしまうという、悲しいニュースも。大統領令の発動もあって、彼らの早急な回復が望まれるばかりです。
コロナ対応での迅速な行動に喝采を送る支持者の傍らで、大統領令に不満を漏らす団体も存在します。ホテル業や航空関連などが加盟する全米旅行産業協会は、海外からの入国者への自主隔離につき、陰性証明がある限り必要なしと主張。テキサス州は、移民退去凍結を違憲として仮差し止め請求しました。こうした反発は政権にとって十分想定内であり、粛々と対応していくのでしょう。
何よりバイデン政権にとって高いハードルであり最優先課題は、1.9兆ドルの追加経済対策の成立に違いありません。トランプ前大統領の弾劾裁判は2月9日に開始する見通しですが、開始前にバイデン氏が署名できるかが、短期的な支持率動向を占うカギとなりそうです。
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2021年1月25日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。