「不織布マスク警察」は科学的なのか?

多田 芳昭

春はマスク警察、年が変わり今は「不織布マスク警察」。布製やポリエステル・ウレタンマスク製マスクが、突然槍玉に挙げられている。困ったものだ。

メディアが伝えるスーパーコンピュータ「富岳」のシミュレーションによると、不織布マスクが約8割、手作りマスク(布、ポリエステル素材)で約7割の飛散を抑制できていることが分かった。マスクによるフィルター性能を強調している。しかし、筆者はフィルター性能と感染抑止の効果とは別の話であると考えている。

monzenmachi/iStock

飛沫が無ければ感染は起こらない

一般的に感染は、感染者から出されるウイルスが混じった飛沫が吐き出されることから始まる。排泄物からの発散を例外とすれば、呼吸器系から吐き出される飛沫が無ければ感染は起きない。飛沫を直接浴びる『飛沫感染』、飛沫が付着した物体を触る事で起きる『接触感染』、飛沫が微粒子化し空気中を漂うことで起こる『エアロゾル感染』。

これら飛沫量の多少が感染リスクに直接影響する。マスクは、この口から発する飛沫を物理的に遮ることで、飛沫飛散量を抑える効果があり、感染リスク低減に繋がる。

但し、マスクを透過して発散されるもの以外に、漏れ出す飛沫も存在する。従って、感染リスクを伴う飛沫は、マスクを透過するものと隙間から漏れ出すものの総和であるはずだ。ここで考えて欲しい、フィルター性能が高いと、透過しようとするエネルギーは、はじき返され、隙間に漏れ出す方に向かう。つまり、フィルター性能が高い方が漏れ出す量が増えるのが物理の原則である。「富嶽」のシミュレーション成果を説明した理化学研究所のサイトにも、こう書いている。

不織布マスクはフィルター性能が高い分、手作りマスクに比べて隙間から漏れる量が多く、性能を高めるためには、マスクを密着させることが有効であることが確認されました。

また、手作りマスクに関しては、綿製よりもポリエステル製の方がフィルター性能が高いこと、一方で、綿製の方がマスクを透過する飛沫の量が多い分、隙間から漏れる量が少ないことがわかりました。

つまり、飛沫飛散量の実際は、布でもウレタンでも不織布でも大差ないということではないだろうか。

マスクの着用状態で飛沫の漏れは大きく違ってくる

それならば、理化学研究所のサイトにも書いてあるように、不織布マスクを隙間なく着用すれば良いという意見もあるが、それは現実的とは言い難い。今、ほぼ1日中のマスク着用が必要になっているが、漏れ出さない着用状態は可能だろうか。メガネの曇りを考えれば明確だろう。飛沫は漏れているのである。

不織布以外はダメだと頑なな人には、是非N95マスクをお勧めする。我が家では東日本大震災以来、常備しているが、はっきり言って長時間装用は不可能だ。その事がはっきりわかるので使ってみれば良い。そうすれば、フィルター性能が高く、漏れない装着をしたら、呼吸をしにくい事が理解してもらえるだろうし、長時間、楽に息が出来るという事は、漏れている証明だと分かるはずだ。

本当に危険なのは、非科学的思い込み

さて、ここまでの事を整理すると、マスク着用に感染拡大防止の効果がある事は間違いない。しかし、現実的でないルールや非科学的な押し付けは、寧ろ効果を低下させてしまうリスクがある。「不織布マスク警察」のような、非科学的思考、論理思考の欠落は、危険なのである。