ミャンマーのクーデターで、試されるバイデン政権の外交手腕

トランプ氏の弾劾裁判を2月9日に控え、バイデン政権が1.9兆ドルの追加経済対策の成立を急ぐなか、同政権の外交手腕が試されつつあります。

ミャンマーの国軍がクーデターに踏み切りました。国軍傘下の放送局ミャワディによれば、ミャンマー国軍は1日、憲法417条を下に新型コロナウイルスと2020年11月の総選挙延期見送りを理由に”非常事態宣言を発令、立法・司法・行政を国軍総司令官のミン・アウン・フライン氏に移譲しました。総選挙前に不正があったとして総選挙の延期を要請していたものの聞き入れられず、国軍が敗北したと主張したわけです。

ミャンマー国軍は、与党の国民民主連盟(NLD)を率いるアウン・サン・スー・チー国家顧問やウィン・ミン大統領など複数の政権幹部を拘束する状況。ホワイトハウスのサキ報道官は、現地時間1月31日夜に声明で「危機感を募らせている(alarmed )」と述べ、「選挙結果の修正あるいは民主化への移行を妨げるあらゆる試みに反対し、行動を取る」と警告しています。ブリンケン国務長官も、ややトーンは控え目ながら「深刻な懸念(grave concern)を抱き、警戒している」と表明していました。

外交専門家は既に経済制裁の再開を呼びかけますが、果たして中国が「友好国」と位置づけ、1月にミャンマーを訪れ、ミン・アウン・フライン国軍総司令官と会談した王毅外相が「兄弟」と呼ぶミャンマーに、効果的な圧力を掛けられるのでしょうか?

ミャンマーは中国にとって極めて重要な国で、王外相がミャンマーを訪問時にワクチンの一部無償提供を申し出るほど。中国の一帯一路構想にとって、内陸部からミャンマーを経由してインド洋に出る中国-ミャンマー経済回廊は外せません。

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画像:1月12日に会談した王外相とフライン総司令官、王外相はアウン・サン・スー・チー国家顧問とも会談(出所:中国外務省)

ミャンマーにとっても中国は外貨を稼ぐ上で不可欠のパートナーで、2019年の貿易統計はご覧の通り、中国はミャンマーの輸出のうち31%、輸入は34%を占め、圧倒的な存在感を示します。

チャート・ミャンマーの輸出入相手国、トップ10

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(作成:My Big Apple NY)

投資相手国としても2020年に215億ドルと、シンガポールに次いで2位の状況。米国のほか、国連、英、豪、NZなど西側も非難のメッセージを送っていますが、経済制裁を発動したとしても、中国の協力なしでは効力を十分発揮できそうにありません。ミャンマーは、そこを理解した上で、クーデターに踏み切ったようにも見えますね。

中国は、西側と違った反応を示しています。中国外務省の汪文斌副報道局長が1日の記者会見で、ミャンマーの状況を「留意(note)」しているとの表現にとどめ、「憲法に基づき、見解の相違を適切に対応し、政治と社会の安定を守るよう望む」と様子見姿勢を貫いていました。また「友好国である」とも繰り返しています。アジア近隣諸国の反応も、米国のような「行動を取る」姿勢を明らかにしていません。

ミャンマーに経済制裁を科すならば、追加経済対策やトランプ前大統領の弾劾裁判で忙しい米上院を経由したものではなく、政権主導となる見通しです。手続きは、以下の通り。

1)危機発生

2)NSCが省庁間の協議を主導

3)大統領と省庁トップに経済制裁を推奨

4)米財務省外国資産管理室(OFAC)が対象と制裁措置を選択

5)米財務省OFAC、米司法省、米国務省が大統領令を作成

6)大統領が制裁を承認

7)制裁発動

世界の視線がミャンマーに釘付けとなるなかで、北朝鮮の反応にも注意。1月11日に、党総書記に就任した金正恩氏がかまってちゃんを発揮しなければよいのですが。北朝鮮に対し、サキ報道官が習近平氏の世界経済フォーラムでの発言に応じて使った「戦略的忍耐(strategic patience)」を繰り返せば、一部の同盟国の失望を買うに違いありません。この言葉はオバマ政権での北朝鮮政策を表し、北朝鮮が非核化へ向けた行動を取るまで交渉に応じない姿勢を意味しますが、結局は北朝鮮の核開発を進めてしまいましたからね。

2019年4月25日付けのワシントン・ポスト紙による河野外相(当時)のインタビュー記事にも「トランプ政権の政策チームが,オバマ前政権の対北朝鮮政策を嘲ける時に頻繁に使われる用語」と書かれていたほどですし・・。そういえば、ペンス副大統領(当時)が2017年4月に韓国を訪問した時、北朝鮮への「戦略的忍耐の時代は終わった」と明言してましたね。


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2021年2月1日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。