女性蔑視の妄言を吐いた東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長に対し、国内ばかりでなく、海外からも怒りの声が強まっています。森氏の早期辞任、後任会長の決定によって、事態の収拾を急がないと、日本のイメージがさらに傷つく。
東京五輪を開催できるか否か、という次元を超えた問題に発展してしまいました。組織委会長に座ってきたのが日本を代表するはずの元首相ですから、「日本はそんな国か」と、世界があきれ果てています。
五輪会長の交代に踏み切り、日本は「性別、人種、民族、国籍、宗教などあらゆる差別を許さない」との五輪憲章を守ることを誓いなおし、反省を示すことでイメージの修復を急がなければなりません。
私はコロナ危機が世界的に収束していない状況ですから、東京五輪は中止すべきだと考えてきました。かりに日本の状況が好転したとしても、選手団を派遣できない、代表選手を決定できない、練習できない国は少なくない。開催を強行すれば、不平等な五輪になってしまうのです。
それどころか「五輪を開催できるか、できないか」より、森会長の妄言の後始末を優先すべき状況を招いてしまっているのです。菅首相も国会で「あってはならない」と発言しています。決断を急がなければなりません。森氏の辞任がなければ、この問題はいつまでも尾を引く。
後任は東京五輪、スポーツに通じ、性差別に問題意識を持ち、即戦力になりうる人物が望ましい。そう考えると、五輪や世界陸上競技会の金メダル保持者(ハンマー投げ)、現在、スポーツ庁長官の室伏広治氏を推します。
室伏氏は五輪組織委のスポーツディレクター・理事でもあります。スポーツ科学者、体育学の博士、昨年10月からスポーツ庁長官です。46歳。04年のアテネ五輪で金、12年のロンドンで銅、11年の世界陸上で金、アジア大会でも金メダルを獲得しています。日本スポーツ界を代表する人物です。
父親の室伏重信氏もハンマー投げ(元日本記録保持者)、母親はルーマニア人でやり投げの五輪代表、妹も女子ハンマー投げの日本記録保持者というスポーツ一家です。宏治氏は「アジアの鉄人」の異名を持つ著名人で、国際感覚もあるはずです。
後任会長に女性が就けば、森氏の差別発言を払拭する効果は期待できます。小池都知事はどうでしょうか。コロナ対策に没頭していますし、コロナ対策や東京五輪の判断材料に政治的要素を持ち込む人物ですから、適格者ではありません。
山下JOC会長も柔道の金メダリストです。JOC臨時評議会での森発言に対し「うん?と思ったことはあった。指摘する機を逸してしまった」と危機感は乏しく、また、JOC会長をこの時期に降りるわけにはいかない。
安倍前首相はどうでしょうか。森派に所属し、森氏は安倍首相の後見人でしたし、その恩返しで森氏を五輪会長に据えたようですから、その点だけでも失格です。さらに持病の悪化で首相を辞任した人物が激務の五輪会長はこなせない。五輪誘致では政治的な動機が絡んだに違いありません。
結局、室伏スポーツ庁長官なら国内も海外も納得するでしょう。問題は会長交代だけで幕引きしてはならないことです。
まず、「日本は性差別のない国として、スポーツ分野での女性の活躍を後押しする。スポーツ団体は女性理事を40%に引き上げるというガバナンスコードの実現を目指す」ことを明言しなければなりません。
次に政治的な動機による五輪誘致を反省することです。安倍氏は自分の在任中に東京開催を実現し、政治的遺産にしたかったようですし、首相を辞任すると、今度は森氏が安倍氏を組織委の名誉顧問にしました。こうした貸し借りをスポーツの世界に持ち込んではなりません。
菅首相は「組織委は公益団体なので、首相は会長人事に介入できない」旨の発言をしました。五輪には国の税金が投入されており、国は会長人事に介入するのは当然です。自分に従わない官僚の左遷、局長人事への影響力の行使はいとわない首相です。森会長を辞任させることはできる。
もっとも政府が本音では「五輪開催は結局、難しい」と思っているかもしれません。その場合「五輪会長の辞任」「五輪開催も中止」では、格好がつかなくなる。だから森辞任に応じない。そう想像することはできます。
かりにそうだとしても、波紋は広がり続け、結局、森辞任に追い込まれると私は観測します。また、コロナが各国で劇的に収束に向かい、五輪が開催されたとしても、森会長のままですと、極めて後味の悪いものになる。
森氏は辞任したら、今後、政界との関係も断つべきです。新聞社説も「歪んだ考えを持つトップ」(朝日)、「トップとしての自覚を欠いている」(読売)、「五輪責任者として失格だ」(毎日)、「発言の撤回だけですむことではない」(日経)と、辞任催促の酷評ばかりです。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2021年2月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。