森発言は女性だけの問題じゃない

森さんの、女性は発言が長いという発言が問題となり、海外でも報じられ、国内でも国会や報道で連日取り上げられて、炎上状態になっています。

NHKニュースより

僕自身もとてもいやな思いをしました。
厚労省でも女性活躍の仕事をしてきて、退官後内閣府の男女共同参画の有識者会議の委員もやらせていただいたので、いまだにこんなことが起こることが非常に残念です。

また、オリンピックは子どもの頃から大好きで、東京で開催されるということは本当に嬉しいことなので、楽しみにしているオリンピックにイヤなものがくっついてしまったような感覚もあります。

森さんは、僕が官僚になった時の総理大臣で、全省庁のキャリア官僚が全員集められる最初の研修で訓示をいただいた人ですが、当時から失言の多さで叩かれていましたから、「今日もなにか失言するんじゃないか。」と思いながら話を聞いた記憶があります。

失言の多い森さんだから、「またか」と受け止められている雰囲気も感じます。森さんがご高齢だから、老害だという受け止めもあると思います。

でも、実はこの問題は森さん個人だけの問題ではないと感じています。

もちろん森さんの発言はとても許容できませんし、一発アウトと言われても仕方ないひどい発言で女性蔑視もはなはだしいです。

森さんは「女性が不愉快な思いをしたこと」「オリンピックの精神に反する発言だったこと」が悪かったと思って撤回と謝罪をしたように見えました。

僕は、そもそも会議の委員の女性比率を高める意味を全く分かっていないことがとても気になります。

森さんは、色んな意見が出て時間のかかる会議はめんどくさいと思っている節があります。

トップに偉い年配の男性がいて、その方に異論を唱えると「空気の読めないやつ」と思われる空気があり、異なる角度からの意見や議論もなく、ものが決まっていく。

これって、日本の色んな組織で起こっていないでしょうか?

この構造が、社会の変化に合わせた意思決定ができない根本的な構造になっていないでしょうか。

公的な会議の委員、国会議員、企業の管理職の女性比率を増やそうと国をあげて取り組んでいます。

これは、女性のためというより、日本全体の未来のために取り組んでいることなんです。

去年の12月25日に閣議決定された「第5次男女共同参画基本計画」には、「政策・方針決定過程への女性の参画拡大」という部分の冒頭に、以下のように書かれています。

『女性は我が国の人口の 51.3%、有権者の 51.7%を占めている。政治、経済、社会などあらゆる分野において、政策・方針決定過程に男女が共に参画し、女性の活躍が進むことは、急速な少子高齢化・人口減少の進展、国民の価値観の多様化が進む中で、様々な視点が確保されることにより、社会経済情勢の変化に対応できる豊かで活力ある持続可能な社会を生み出すとともに、あらゆる人が暮らしやすい社会の実現につながる。』

つまり、社会の変化を受け止めて、時代に合った意思決定をしていくために、多様な意見を取り入れないと、年功序列社会の日本の未来も組織の未来もないんです。

scyther5/iStock

昨日までの正解が明日以降も通用する時代なら、経験豊かな年長者に従うのが合理的ですね。右肩上がりの昭和の時代ならそれでよかったのかもしれません。

でも、社会の変化が劇的に早くなり、グローバル化も進み、また国民の生活や価値観も多様化しています。役所も企業も個人もこのまま同じことを続けていっても行き詰まるのが分かってるけど、じゃあどう変わったらよいかという正解がわからない時代です。

こういう時代だから、経験豊かな偉い人が必ずしも正しく導けるわけじゃないんです。多様な人がフラットに議論して、方針を決めた方が今の最適解が導きやすいんです。

人口の半分が女性なのに、意思決定の場の女性の割合は極めて低い中で、自然体でいると意思決定の場の構造自体が変わりません。少なくともこれは引き上げていった方がよいです。

女性が増えて、たくさん意見を言うことは、年配の偉い人の顔色を気にして自由闊達な議論をしない雰囲気を変えるわけですから、とても望ましいことと思います。

もちろん、男女の問題だけじゃなくて、色々な年代、専門性、立場・属性の人が集まった方がよいです。僕は、特に若い人の意見をもっと取り入れた方がよいと思っています。ダイバーシティ経営という言葉もありますね。東京オリンピックは、ダイバーシティ&インクルージョンを標榜しています。色んな立場の人を包み込んでやっていきましょうということですね。

森さんは、このことを理解しておられないので、女性の委員を増やすことについて「文科省がうるさい」という発言をしていると思いますが、この社会の色々なところに同じようなことがあると思います。

そのことも、考えていきたいと思います。


編集部より:この記事は元厚生労働省、千正康裕氏(株式会社千正組代表取締役)のnote 2021年2月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。