韓国紙、米教授の「慰安婦は売春」論文に反論キャンペーンもまるで迫力なし

高橋 克己

中央日報が2日、先月末に産経が報じたハーバード・ロー・スクールのラムザイヤー教授による「太平洋戦争当時の性契約」について、「『慰安婦、性奴隷でなく売春』ハーバード教授の論文が波紋…日本『意義が大きい』」との見出し記事を載せて以来、同教授への非難や批判が韓国紙に渦巻いている。

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同紙は「慰安婦が『性奴隷』ではなく、利益のために日本軍と契約を結んで売春をした」と同教授が主張する根拠を、産経記事を引いて次のように書く。

▼当時、内務省が「慰安婦」を募集する際、すでに売春婦として働いている女性のみ慰安婦として雇うことを募集業者に求めた点 ▼所管警察に対しては、女性が自らの意思で応募していることを本人に直接確認した点 ▼契約満了後ただちに帰国するよう女性たちに伝えることを指示した点--など

なるほど「これなら売春だし、日本軍や官憲の強制連行などない」ということだ。が、中央日報は同じ日、韓国帰化後も日本名で仕事をしている、この種の記事には常連の保坂祐二世宗大韓国史教授の「証拠のない推論だ」の発言を、取り敢えずの反論として載せた

確実な証拠がないのに端緒だけ挙げて推測するものだ。日本国内では売春をする女性がとても多く、公式的な公娼になれた女性は62%にしかならずむしろ売春をしたがる女性があふれていたという話をした。そのため海外に進出するのにとても容易だった。朝鮮でも似た状況があったといった。ところがそこには資料がない。だから問題だ

次の同紙の反論記事は翌3日、ハーバードに巨額の寄付をしてきた「三菱」がラムザイヤー教授の肩書に含まれ、同教授が幼少期を日本で過ごして日本史を学び、18年には旭日中綬章を受章したと書く。まるで反論になっていないが、何なら「青少年期まで日本で育った」保坂教授に叙勲したらどうか。

次の反論は6日の「『慰安婦売春』妄言の教授に怒り…ハーバード大の韓国系学生」との同紙の見出し記事。それにしても以下のような韓国人の留学生の祖国愛とエネルギーには感歎する。我国の海外留学生に彼らの爪の垢を煎じて飲ませたいほどだ。

ラムザイヤー教授の主張は不正確であり、事実を糊塗するものだ。彼は説得力がある証拠もなく、どの政府も女性に売春を強制していないと主張している。ラムザイヤー教授は韓国の観点と学界の著作にほとんど言及していない。中国と台湾、フィリピンなどで旧日本軍により最大20万人の女性が性的奴隷として強制収容された。私たちは日本政府から完全な賠償と公式的な謝罪を受けることができなかった犠牲者と共にする

だが、中央日報もここまでの保坂氏やハーバード留学生の反論自体も、「確たる証拠なし」にラムザイヤー教授の論に「証拠がない」と述べているに過ぎず、また同教授の三菱の肩書や日本育ちや叙勲も、何ら反論の体を成していないことの自覚からか、8日の反論記事には真打4人を登場させた。

同じハーバード大のエッカート、ゴードン、フェルドマンの3教授、コネチカット大ダデン教授、ウェルズリー大ムーン教授、ニューヨーク・クイーンズ大ミン教授だ。筆者はこのうちのエッカート教授とダデン教授には多少の知見がある。

まず中央日報が引用する両教授の発言を挙げてみる。先ずはエッカート教授。

ラムザイヤー氏の論文はみじめなほど、実証的に、歴史的に、道徳的に欠陥がある論文。(同氏は)慰安婦問題の本質である日本の植民主義と軍国主義の脈絡を軽視した。日帝強占期の政治・経済的脈絡は排除したまま『慰安婦』事件だけに焦点を当てて主張を行った。慰安婦被害者の性的尊厳性は無視され、単純で一次元的な問題に縮小された

エッカート教授は03年に日本語版を出した「日本帝国の申し子」(草思社)と題する著作で、日本統治期史上初の朝鮮資本による大企業「京城紡績(株)」と、高敞(全羅北道)の金一族の家業を継いでここまでにし、東亜日葡や後の高麗大を創設した金性洙について書いている。

筆者は昨年1月本欄に5回連載した「朝鮮分断小史①-⑤」ので金性洙に触れた時、このエッカート本も参考に使った。金は早稲田大政経学部に留学歴がある実力派だったが、京紡社長を朴泳孝、東亜日報社長を宋鎮禹の両盟友に任せるなど、表に出ることの少ない人物だった。

エッカートは同書の日本語版序文で、「京紡が大きな成長を遂げたのが、戦後ではなくむしろ日本統治期だったことに非常に驚き」、それが彼の植民地期の朝鮮研究に発展したとする。ところが、同書が「日本の植民地支配を擁護するものだと批判され」、「困惑させられた」とも書いている。

続けて「この機会にはっきりさせておきたい」が、同書は「日本の植民地支配に対する弁明などでは決して」なく「韓国資本主義の発展に関する研究書」であり、日本による「朝鮮支配の過酷な側面を否定したり矮小化したりする意図は全く」ない、とわざわざ断っている。序文でこんな弁解を書くこと自体少々普通ではない。

また解説では、木村光彦青学大教授が、北朝鮮の学会で主流だが韓国では少数派の、「民族資本と買弁資本との区別」が北の「学会に一定の深みを与えた」と同書が主張するのを、だとすると「京紡が買弁資本であったことを論証してしまい」、同書の「植民地支配が朝鮮人による資本主義発展を許した、との結論が得られるか疑問だ」と書いている。解説者が肝の部分を否定するのも珍しい。

それなりに精緻な研究書とは思うが、エッカート教授こそ「日帝強占期の政治・経済的脈絡」には詳しいかも知れないが、慰安婦問題ではラムザイヤー教授や「反日種族主義」を編んだ李栄薫教授ほど詳しくは研究していないのではないか、と筆者はつい想像してしまう。

次にダデン教授は、恩師であるラムザイヤー教授の論文について、「歴史的背景と慰安婦が設置されるまでの脈絡を全く理解しないで作成したため」、「概念的にも誤りがある」とし、「とんでもない内容で、愚かな学問的生産品のひと欠片」と批判した。

このダデン教授の強烈な反日親韓ぶりを筆者は19年11月に本欄「米女性“反日学者”、ソウルで東京五輪での旭日旗禁止要求の妄言」に書いた。参考にしたハワイ大学アキタ教授の「日本の朝鮮統治を検討する」(草思社)は彼女のことをこう述べる。

彼女の研究論文の随所に見られるのは、どうにも学者らしからぬ意味不明かつ一方的な記述の羅列と、時に史実の立証が不可能な出来事に基づく、単純にして怪しげな結論なのである

また、同書のバクスター国際日本文化センター元研究員の批判も次のように辛辣だ。

ダデンと版元は、研究者としての彼女の経験に関して様々な問題があるにも拘らず、(不完全な論文を)出版するという、若い研究者にとって良からぬ前例を作ってしまった。・・この分野の先輩諸氏から同業者として尊敬されるためには、刺激的な論文を作成しようとして、威勢がいいだけの主張をするのはやめにして、(史実に基づいて)詳細に至るまで論文を整理し直す必要がある

またムーン教授が「14-16歳の女性が(契約)内容を完全に理解したとどのように証明できるのか」と批判したことについては、その年齢の女性が本当に慰安婦として存在したかどうかの証明が先ではないかと思われる。以上が中央日報の反論がまるで迫力がない理由だ。

但し、慰安婦契約理論を研究するフェルドマン教授が、ラムザイヤー教授が慰安婦契約を社会・経済・教育差別を制度的に合理化した「ジム・クロウ法」に例えたことは、むしろ「権力の不一致に伴う強制契約だったということを証明した格好」とした件は、ラ論文が公開された後に勉強してみたい。