テキサス州の大停電、バイデン政権の気候変動対策に一石を投じる

自然は時に、残酷です。

コロナ禍に見舞われる米国に、2月13日頃から記録的な大寒波が襲来しました。

寒波に見舞われたテキサス州ヒューストン(2月15日、Art Wager/iStock)

最も大きな打撃を受けた州は、テキサスです。テキサス州の冬の平均気温は摂氏7~13度程度にも関わらず、16日にはダラスでマイナス11度まで急低下し、1930年以来で最低を更新ヒューストンやサンアントニオでもマイナス11度と1989年以来で最低をつけました。豪雪にまで見舞われ7.6~12.7cm程、積もったといいます。17日には、テキサス州の254郡全てで、気象警報が発出されたほどです。

テキサス州と言えば面積はアラスカ州に次いで全米第2位で69.6㎢と日本の約2倍、フランスをも上回るというのに、除雪車保有台数は700台程度なんですよね。いかに大寒波への備える意識が低いかが伺え得ます。結果、交通網が混乱しただけでなく、食料を始め様々なのサプライチェーンが途絶してしまいました。

まだまだ寒気は弱まらず、19日付けのCNNによれば、約7,800万人が冬期気象警報(winter weather alert)、約 2,700万人が硬氷結警報(hard freeze warning)にさらされ、予断を許さない状況が続きます。

この歴史的な寒波のなか、テキサス州では大停電が発生しました。グレッグ・アボット州知事(共和党)は20年夏に同じく広範に及ぶ停電を経験したカリフォルニア州のニューサム知事と同じく、民間企業に非難の矛先を向けたものです。

しかし、他州も冬将軍の猛威にさらされたにも関わらず、なぜテキサス州だけがこのような大停電の憂き目に遭ってしまったのでしょうか?

アボット州知事は、ツイッターで「天然ガスや石炭を燃料とした発電所を含め、民間の電力会社で凍結を確認した」と説明しています。さらにFOXニュースでは「テキサス州にとってグリーン・ニューディールは致命的な政策となる」と警鐘を鳴らし、特に風力発電への依存度を問題視しました。

チャート:SNSでは、凍結したタービンの画像が出回る

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(出所:Eric Feigl-Ding/Twitter)

これに対し、グリーン・ニューディールの旗手であるアレクサンドリア・オカシオ-コルテス下院銀は真っ向から反発、まさにグリーン・ニューディールを展開しなかった代償批判しています。

では、両者の見解を受けてテキサス州の発電源割合を見てみましょう。

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(作成:My Big Apple NY)

こうしてみますと、2019年時点でテキサス州では天然ガスへの依存度が53%と極めて高く全米の38%を上回る一方で、風力も17%と全米の2倍以上に及ぶことが分かります。

風力発電への高い依存度には理由があり、ブッシュ(父)政権で可決した”1992年にエネルギー政策法”が影響しています。同法では、市場需要とは関係なしに風力発電を始め再生可能エネルギー電力生産に税控除を提供、1999年に期限切れを迎えるはずが同じくブッシュ(子)政権は”2005年エネルギー政策法”でインセンティブの継続を盛り込みました。そこにエネルギー大手エンロン(2001年に不正会計で破綻)などの企業のロビー活動も加わり、広い土地と長い海岸線など地形上の利点もあって、テキサス州で風力タービンの建設が進み、今では風力がテキサス州で石炭を超え第2位の発電源となったというわけです。

ただし、大寒波と悪天候により風力発電が機能しなかった影響で、ベースロード電源が供給量が不足した事情もあります。ベースロード電源とは、発電(運転)コストが低廉で、昼夜を問わず安定した電力供給が可能な電源になりますが、風力発電で賄えない部分を補填するはずの天然ガスや石炭の発電所の凍結も災いし、機能を果たせなかったのですよ。

実際、テキサス州の電力系統・市場運営機関で電力信頼度協議会(ERCOT、残念ながら日本からはサイトにアクセスできず)によれば、天然ガスと石炭、原子力の発電量は67ギガワットに対し16日の午後時点で30GWが供給が一時停止になったといいます。対して、ほぼ風力が占める再生可能エネルギーは30GW程度の発電量のところ、16GWの供給がストップしていました。つまり、天然ガス+石炭+原子力と、風力そろって発電量の半分が供給停止となったのです

民主党と共和党の主張の違いは、どこに論点を置くかで決まります。民主党は天然ガスや石炭への依存度を責め、共和党は風力発電への傾倒が背景と訴えているというわけです。どちらの発電源も、大寒波への対応が不十分だったことが影響したことに変わりありません。

ただ、やはり環境負荷が大きいとして天然ガスや原子力の発電網の拡大は難しく、ベースロード電源をどうするかが課題となります。風力や太陽光は大寒波だけでなく天候に左右されやすく安定供給は未だ困難であり、日本では関西電力がサイトでそう指摘しています。

バイデン政権が掲げる約2兆ドルの気候変動対策はスケールが大きく、実現すれば地球にやさしい環境が整いそうですが、その前にベースロード電源を始め、再生可能エネルギーにまつわる課題を乗り越える必要がありそうです。

余談ながら、テキサス州大停電の数少ない勝ち組は、フォードだとか。トラックのF-150が電源として活用できたとの報道を追い風に、株価上昇はさらに加速するかも?


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2021年2月19日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。