混迷の菅内閣、たったひとつのリカバリ策はこれだ

高橋 大輔

昨年9月には出身の秋田県で「号外」が配られるほど熱狂で幕を開けた第99代・菅義偉内閣も、今や当初の勢いはどこ吹く風。どれほど贔屓目で見たとしても、その舵取りが上手くいっているかというと、自信をもってイエスと言える人は果たしてどれだけいることでしょう。

首班指名され挨拶する菅氏(2020年9月16日、官邸サイトより)

その原因を数え上げたらきりがない、それ以上にこの2か月を振り返るだけでも、加速度的な勢いで乱気流に突入している。そんな印象すら抱きます。

政敵ならばこれ幸いと色めき立つかも知れませんが、好き嫌いは抜きにしても「政権がうまくいっていない」ことは国民にとっても決して幸福なことではありません。

私自身、菅総理とはまったく面識がありません。それでも同じ秋田県出身として、せめての情けというか、気づいてほしいことが幾つかあります。

現在の支持率低下は誰が招いたか、それは他ならぬ総理ご自身

2021年となった今年の2か月だけど振り返っても、相次ぐ所属議員の「夜のクラブ活動」をはじめ、また直近では子息による総務省接待疑惑などが現在進行形の状態で、どのような結末にたどり着くのか予測がつきません。

総務省接待 事実を公表して疑惑に答えよ(2月20日、読売新聞社説)

総務官僚接待 首相の政治責任は重い(2月26日、朝日新聞社説)

ここまで指弾されれば、たしかに会見を早めに切り上げたくなる気持ちは分からないでもない。癇に障るのも無理はないでしょう。けれど、これが実は勿体ないというか、残念でならないのです。その就任時には総理の同郷としても注目を集めた元共同通信記者の柿崎明二・首相補佐官は特に残念というか、期待を裏切られた思いです。

記者時代には政権に対し批判的な論調が目立ったこともあり、任用後も諫言(かんげん)を発揮してくれまいか、そして総理自身も「自身を厳しく見る目」を欲していたのではないか。当初こそ期待していたものの、裏腹な現状を見るにつけ己の見立ての甘さに腹が立ちます。

なぜ内閣支持率が上昇に転じられないのか、総理の中には足を引く面々の顔がいくつも思い浮かぶことでしょう。けれども実は総理ご自身が招いている部分も少なくないのですよ。なぜ、そこに気づいてくれないのかなあと思うのです。

油断すれば、背中から撃たれるかも知れない。当たり前です、背中を向けているのは他ならぬ総理ご自身なのですから。就任以来の様々な会見で、時間いっぱいまで、記者がギブアップするまでの無制限一本勝負を戦い抜いたことがあっただろうか。私の記憶では皆無です。

「時間です」「次の予定が押しています」は便利ですが、その度に国民は背を向けられた、そのような思いに駆られるのです。好き嫌いを抜きにしても。

もっとも私などは会見の現場に足を運んでいるわけでもないので、まだいいです。大手報道機関の記者の方々も、サラリーが保障された状態での参加なのだから、同じく良いでしょう。

けれども、フリーランスないし独立系メディアの立場で会見に臨まれる方々はどうか。そこはやはり袖にしてはいけない。そう思うのです。むしろ大手よりも、フリーランスの方々との対峙姿勢こそが実は政権運営の浮沈を左右する、ここに気づいて欲しいのです。

総理会見で活躍するフリーランスないし独立系メディアの方々、とりわけ神保哲生・ビデオニュースドットコム代表や、ジャーナリストの畠山理仁、安積明子両氏には尾崎財団とのご縁も含めて大いに注目しています。神保代表には尾崎財団主宰のリーダ育成塾・咢堂塾(がくどうじゅく)で毎年「日本のメディア問題」のテーマで講義いただいております。

神保哲生氏(筆者提供)

また畠山、安積各氏には尾崎財団「咢堂ブックオブザイヤー」で過去にも部門大賞を受賞いただきそれぞれ注目しているわけですが、各氏の会見質問や臨み方には「大手では絶対にできない」質問のスタンスやポリシーがあることに気づかされます。もしも菅総理が泥沼からの脱出を願うならば、私が思うかぎり唯一の方法はこれしかない。ぜひ、耳を傾けていただきたいと願います。

畠山理仁氏(Amazon著者紹介ページより)

安積明子氏(本人Facebookページより)

たったひとつの道。それは「会見、とりわけフリーランスと徹底的に向き合うこと」

「言うは易し、行うは難し」なのは百も承知ですが、やはりこれしかないと私は思います。なぜフリーランスなのか、独立メディアなのか。大手メディアの記者による質問は、そもそもの宿命として「社命もしくは社是」の域を出ることができないのです。記者各氏にフルネームがあっても、会見に臨めるのは個人としてではありません。あくまでも各報道機関の看板は外れないし、逆に外すこともできない。

逆にフリーの方々による質問には、「社の意向」などは一切存在しません、そこが一番の違いです。神保氏の場合はご自身が代表ゆえ若干立場が異なるかも知れませんが、総じて各氏の質問は「国民が知るべきこと、国民に知らせなければならないこと」に裏打ちされているといっても良いでしょう。

菅総理にしてみれば、ともすれば「大手よりも嫌なことをぶつけてくる」とお思いかも知れません。ところが実はこれも「国民に背中を向ける」の論と一緒で、菅総理の考え方次第なのです。果たして記者の方々は、菅さんを総理の座から引きずり下ろしたくて仕方がないのだろうか、あるいは面罵したいのだろうか。いずれも違うと私は見ています。むしろ総理は虚心坦懐に、記者会見を通じて、国民に想いを伝える姿勢を見せてくれて良いのではないか。べつに記者の方々を取り込めと言っているのではありません。もう少し彼等、彼女等の矜持を信頼して良いのではないか。そう思うのです。

自身の「映し鏡」として読んで欲しい一冊がある

フリーランスの各氏はいずれも鋭い筆致の使い手でもありますが、その中でも「会館の美女」として知られる安積明子さんの最新刊『新聞・テレビではわからない、永田町のリアル』。菅さんは手にとって読まれたでしょうか。

まだならぜひ読まれたほうがいいですよ、そうお薦めします。とくに「政治家が守らなければいけないもの」と題された終章は、職務の一部を副総理に預けてでも読んだほうがいい。そこには現在の菅総理が失ってしまわれたもの、そしてまだ残っているであろう、いやそうであって欲しい「志の原点」についても触れられています。

決して心地のよいばかりではありませんが、少なくとも過去の2作とは文体も違って穏やかです。一大痛棒を食らわすというよりは、むしろ優しく諭すようなトーン。そこには攻撃の意図は感じられず、ただ「善政への切望」が書かれています。

もしも菅総理が、ご自身で納得のできる、それこそ「国民のために働く」とおっしゃられた初心を実践する覚悟をお持ちならば、まずは本を読まれること、そして今後の記者会見で「記者から逃げない」ことを願います。

わずか数名と向き合えない指導者が、そもそも1億2千万人と向き合えるわけがないのです。

それは私が望むところではありませんし、むしろ記者会見、とりわけフリーランスの方々を通じて、国民と向かい合っていただきたいのです。