今さらだが、カルロス・ゴーンの保釈は甘かった

カルロス・ゴーン逃亡犯の国外脱出を助けた元グリーンベレー隊員とその息子が、2日アメリカの司法当局から日本の検事に身柄を引き渡され、逮捕されたというニュースが流れた。日産でゴーンの下で権勢を誇っていたケリー元代表取締役も現在裁判が進行中だ。残るゴーン本人だけが、まだレバノンに滞在して自由な生活を送っている。

ゴーン氏ツイッター(当時)より

ゴーン逃亡犯が検察に拘留されて、保釈が認められない間、外国メディアは日本の司法制度の前近代性と非人間性を盛んに批判した。日本のメディアも、こうした外国メディアの報道を受けて、日本の検察を批判する側に立った。新聞やテレビで専門家・有識者が、外国ではすぐに保釈が認められるとか、GPSを付けて保釈できるようにすべきだとか、検察が一度にではなく、次々と起訴をつなげて拘留を長引かせるのは人権侵害だというような主張が日々報じられ、そのせいかどうかは分からないが、日本の裁判所は緩い条件で保釈を認めてしまった。

しかし彼はパスポートを複数持っていた。また、元グリーンベレーの隊員を脱出の助っ人に雇うノウハウも持っていたし、そのための逃亡資金も十分に蓄えていた。

ゴーンが国外逃亡に成功した後は、世界のメディアは彼の逃亡をひととおり非難はしたものの、むしろそのスパイ小説もどきの手際の鮮やかさに焦点を当てる報道に満ち溢れ、それまでの日本の司法制度の前近代性を批判する論調はどこかに忘れられてしまった。バカを見たのは日本の裁判所・検察、そして日本国民だった。

そもそも外国の司法も、そんなに日本が見習わなければならないほど人権重視一辺倒で、どんな場合でも保釈を認めているわけではない。

最近の事案で言えば、エプスタイン事件の共犯として起訴され、拘留が続いているギレーヌ・マクスウェル被告の保釈請求の取り扱いがそうだ。

エプスタイン事件をご存じない読者にごく手短に説明すると、ウォール街で成功して大金持ちになったジェフリー・エプスタインという人物が、彼が所有するカリブ海の小島やニューヨークの邸宅を舞台に、未成年の女性にセレブ男性の性接待をさせていたという事件だ。被害者の女性の一人が訴え出たことにより彼は2018年に逮捕・起訴されたが、法廷に出て審理が始まる前に刑務所内で謎の自殺を遂げた。この自殺に関しては口封じのためという陰謀説が流れ、当時のトランプ大統領も彼が殺された可能性を示唆した。

被害者の女性によれば、クリントン元大統領や英王室のアンドリュー王子などと性交渉を持ったとのことだ(当然ながら元大統領の広報担当者や英王室はこの事件とのかかわりを否定している)。

このエプスタイン被告のために少女を集めて性的サービスをさせた疑いで、昨年7月に逮捕されたのがギレーヌ・マクスウェル被告だが、彼女が拘留中に(現在も拘留中だが)何度保釈請求をしても裁判所は請求を却下している。昨年暮れには、保釈金の額を大幅に引き上げて2,850万ドル(約30億円)を提供してもよいと言い(ちなみにご存じかも知れないが、ゴーンの保釈金は日本史上最高といわれたが、それでも15億円だった)、さらにニューヨーク市内から出ないこと、24時間監視をしてもよいこと、GPSの腕輪を付けてもよいことなどを条件に出したが、彼女の保釈は認められなかった。2月23日には、彼女が持っている英国、フランス、米国の市民権のうち英国とフランスについて放棄してもよいと言ったが、それでも保釈請求は認められていない。このままだと今年7月に予定されている裁判開始まで彼女はずっと拘留されたままとなる。彼女の弁護人によれば彼女は拘置所の劣悪な環境のために最近やつれがひどいので、なんとか保釈を認めてほしいと言っているが、裁判所は頑として保釈を拒否している。

裁判所がここまで頑なになるのは訳がある。ギレーヌ・マクスウェルはただものではないのだ。実は彼女のなくなった父親はイギリスのメディア王のロバート・マクスウェルで、裏の顔はイスラエルの諜報機関のモサドの大物スパイだった。1991年9月、彼は大西洋のカナリア諸島沖でヨット遊びをしている際に謎の死を遂げている。彼女は約30億円の保釈金を積むことができるだけの資産家でもある。

仮に、同じようなことを日本の裁判所がしたら、世界中から日本の司法制度は前近代的だとか恣意的だとか、非難の嵐に見舞われるだろう。しかし私は、ゴーンの時の痛い経験を踏まえて、日本の裁判所も拘留の必要があると考える場合は、たとえいかなる批判にさらされようと、マクスウェルの裁判官のように、毅然とした態度を保つべきだと思う。

今更だが、カルロス・ゴーンの保釈は甘かった。