3月5日(金)、菅総理が緊急事態宣言を2週間延長する記者会見を行いました。
この中で、フリージャーナリスト江川紹子さんがブラック霞が関という言葉を使って、若手官僚の離職増加について、官僚の働き方、接待、官邸主導の問題について質問しました。
これに対して菅さんは以下のように答えました。
■若手官僚が、途中で退職することは残念だが、逆に、いったん退職して、また元の省に帰ってくる人がいることも事実。労働力の流動化が大事。
■ 志半ばで諦めるのではなく、次のステップを考えて人事異動ができるように、若い人はした方がよい。
動画で菅さんの動きを見てみると、質問を聞きながら自分でメモをしていますし、他の質問と異なり答える時に手元のメモに全く視線を落としていません。
おそらく、事前通告のない質問にアドリブで答えたものだろうと思います。つまり、菅さんの素の認識を自分の言葉で答えたものと思います。
まず、なぜこの質問に出戻りの話から入ったのか謎ですが、いったん辞めた官僚が戻ってくる、いわゆる出戻りは中途採用で可能ですが、極めてレアケースです。
そして、労働力の流動化についてですが、これは流動性が低いから今の程度の離職率で済んでいるんです。
若干、省庁の分野にもよりますが、民間に転職すると制度を作るなど官庁でしかできない仕事ができなくなるのでブラックな環境の中でも転職してよいか悩むんです。簡単に戻ってこれるなら、すぐ大量離脱が起こります。
もちろん、霞が関を知っている人が、いったん民間に行って異なる世界を経験して戻ってくる人がいることは大いに戦力になると思いますが、今の働き方と待遇では戻ってこれる人はごくわずかです。
そもそも、菅さんの回答に全く出てきませんでしたが、若手の離職について簡単に説明します。
若手の離職が6年で4倍に増えていて、特にこの2年急に増加しています。
また、国家公務員を志望する学生も激減しています。
この背景を内閣府人事局の調査が明らかにしていますが、
辞職意向の理由のトップは、「長時間労働党で仕事と家庭の両立が難しい」と「もっと自己成長できる魅力的な仕事につきたい」です。
つまり、ブラックな働き方と仕事の魅力が落ちていることが大きな問題なのです。
そして、霞が関が崩壊の入り口に立っていたところにコロナが来ました。
そこに、対応の中心となる内閣官房コロナ室や厚労省では異常な激務が続いています。
内閣官房コロナ室では1か月の残業が378時間の職員もいたことが明らかになりました。国難ですから、使命感を持つ官僚たちは必死に頑張るのですが、いくらなんでもこれでは死んでしまいます。
ですから、冒頭の江川紹子さんの質問には、霞が関の若手の離職の背景にブラックな働き方があるということと、働き方改革をしていこうということを言ってほしかったですが、そういうことを全くおっしゃらずに雇用の流動化と若手にすぐにあきらめるなということを言いました。
菅さんの質問への答えを聞くと、明らかに大した問題と思っていません。それが分かって愕然としました。
改めて広くこの問題を伝えていかないといけないと思いました。世の中の関心度が上がれば、必ず首相も対応してくれるからです。
ご関心のある方は、ぜひ拙著「ブラック霞が関」をお読みいただけますと幸いです。
官僚の働き方の現状、なぜブラック化してしまうのか、官僚は何をしているのか、なぜ必要なのか、官邸主導の功罪、官僚の仕事の醍醐味はなにか、官僚を本当に国民のために働かせるための霞が関の改革と国会改革の提言を、あますところなく書きました。
この本を出してから、メディアでも数多く取り上げてくれて、「ブラック霞が関」という言葉が少しずつ広まっていますが、より多くの方にお読みいただけると幸いです。
編集部より:この記事は元厚生労働省、千正康裕氏(株式会社千正組代表取締役)のnote 2021年3月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。