リスク管理と戦うプロフェッショナルの誇り

投資運用業においては、リスク管理の名のもとでの一定の組織統制は必須であるが、基本的な意思決定は常に具体的事案に対峙するプロフェッショナル個人によってなされなくてはならない。

しかし、組織の弊害は、リスク管理の越権を招き、プロフェッショナル個人の裁量よりも、組織の規則による統制が優越し、投資は単なる事務に堕し、個性もない、付加価値もない投資が横行する。

真に付加価値を創造できる投資運用業にするためには、プロフェッショナリズムの徹底が必要であり、組織統制から個人の能力へと基軸が転換されなくてはならない。その結果、プロフェッショナルが組織と鋭く対峙する局面も避け得ない。

最低限のリスク管理として、プロフェッショナル個人の意思決定の集積結果に対して数量調整等がなされるのは当然であり、それがプロフェッショナル個人の意思を超えることも自明である。しかし、その余のリスク管理は、リスクとして認知すべき論点を敢えて注意喚起のための意見にすぎず、強制力を伴う組織の決定ではあり得ない。リスク管理の越権とは、意見にすぎないものに命令と同様の権威を与えることである。

プロフェッショナル個人としては、当然の責務として、自己の誇りと能力の全てを賭けて、リスク管理の意見に対して反論しなくてはならない。そして、反論し得なければ、戦いの負けであり、プロフェッショナル個人の判断として、リスク管理の意見の正当性を認めて、それに、自主的に、即ち自己の意思決定として従う、これが真のリスク管理である。

リスク管理は、プロフェッショナルの判断とは別な視点から、自由に意見をいうことができ、その意見は、しばしば、プロフェッショナルの気付かなかったリスク要因の指摘になるわけで、それを受けて再分析がなされ、異なる結論が得られるのならば、より洗練され精緻化された投資判断となり、プロフェッショナル個人としての成長にもなるわけである。

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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