再び蠢き始めたグリーンランドという「伏兵」とウラン・マーケット(二宮 美樹)

グローバル・インテリジェンス・ユニット シニアアナリスト 二宮 美樹

グリーンランドにおける採掘プロジェクトを巡る論争が、政治的混乱を招いている。

世界最大の島の南端にあるクアンナースート鉱山(Kvanefjeld)がスマートフォンや風力タービン、電気自動車の生産に欠かせないレアアースに加え、ウランとフッ化ナトリウムも含む世界最大級の多元素鉱床と考えられていることが発端だ。(参考)

KimKimsenphot/iStock

今年(2021年)2月初めに連立政権が崩壊し、同月16日に地方議会はキム・キールセン(Kim Kielsen)グリーンランド自治政府首相に不信任投票を投じた。その結果1年前倒しで4月6日に総選挙が開催される。

2019年にグリーンランドの天然資源と地政学的な重要性に惹かれたトランプ前米大統領が同島の買収を提案したことはまだ記憶に新しい。米国とデンマークとの間に一時的な“角逐”は生じたものの、これがむしろグリーンランドの地政学的な価値をハイライトする結果となった。

(出典:Wikipedia

とりわけ注目されているのが世界最大級のウラン鉱床である。グリーンランドの主要産業である漁業を補うほど巨額の利益を生む可能性がある。(参考)

これが「デンマークからの独立」というグリーンランドの長年の夢を煽るものとなっている。

現在世界最大のウラン生産国はカザフスタン、カナダ、オーストラリアとなっている。(参考)

「緑の地」を意味する国名にもかかわらずそのほとんど(80パーセント)が氷で覆われている「グリーンランド」。しかしヴァイキングが発見したばかりの頃は緑豊富な島だった。(参考)

グリーンランドのウランは1950年代に初めて発見された。

1957年7月にはデンマークの物理学者で量子力学の育ての親であるニールス・ボーア(Niels Bohr)がナルサークを訪れる。「プロモーション」の意味合いの強い訪問であった。

その数週間前にはデンマークの地質学者がクアンナースートから有望なウランを含むサンプルを採取していた。ノーベル物理学賞を受賞し広島に原子爆弾を投下したマンハッタン計画にも関わったボーアの願いはグリーンランドのウランがデンマークの原子力発電計画を支えることだった。

しかし1983年にデンマークは原子力発電所を建設しないことを決定する。その結果クアンナースート採掘プロジェクトはデンマークの政治アジェンダから消えることになる。

ところが2013年にグリーンランド議会がウラン採掘の禁止を撤廃する。これによってクアンナースートやその他の多くのプロジェクトの扉が開かれた。(参考)

2008年にはオーストラリアのグリーンランド・ミネラル・アンド・エネルギー(GME)社がこの地域を買収した。ただし同社の最大株主は中国企業である。

さらに今年(2021年)1月にはフランスの原子力巨大企業であるオラノ(Orano)がウラン探査許可を2件獲得する。
(参考)

チューレ米空軍基地(MaslennikovUppsala/iStock)

しかしここで忘れてはならない点はグリーンランドには米軍の巨大な基地があることだ。1940年にデンマークがナチス・ドイツによって占領されたことで1941年4月米国はグリーンランドを自らの保護下に置くと宣言し、軍事基地を設置したのである。その後、領有権はデンマークに返還されたものの米軍は大戦後も引き続き「チューレ空軍基地」(Thule Air Base)を維持してきた。その意味で各国がウランを採るのは米国の承認事項でもあるはずである。(参考)

「アラスカ」を有する米国は「北極圏」国家(Arctic states)でもある。他に「北極圏」国家とされているのがカナダ、アイスランド、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、(グリーンランドを有するという意味での)デンマーク、ロシアである。
(参考)

北極海の氷が急速に解けていることが“喧伝”されることで同地域に「懸念」と「好機」入り混じる緊張と競争が生まれている。

注目の集まる北極圏の中でもとりわけこのグリーンランドの莫大な地下資源がマーケットに出回るようになれば世界を一変させる可能性がある。

4月6日に行われる総選挙がグリーンランドの今後の行方に及ぼす影響、そして北極圏における争奪戦の激化の可能性に目が離せない。