東日本大震災から10年に、考えていること

東日本大震災から10年となりました。いまでも4万人以上の方が避難生活を送られています。被災された皆様の10年間に、心からお見舞い申し上げます。

本来は10年間の自分の取組について振り返るべきなのでしょうが、どこか心が慌ただしく、そのような気持ちになれません。この間、いくつかのイベントやメディアに出させて頂きましたので、そこで考えていたことを紹介したいと思います。

1. 『被災地には人がいない』

3月10日の夜は、安倍俊樹さん率いるリディラバが主宰する社会問題を考えるサロン「リディ部」にゲスト出演していました。

被災地に深く関わるきっかけを問われた時に思い出したのは、大槌町の夜のことです。確か2011年5月頃だったと思います。当時は今のコロナ感染症のように、東北のことについて、著名人から一般人までSNS上で百家争鳴の議論がなされている状況でした。

しかし、津波の現場に行ってみると、夜にもなると誰もいなくなるのです。その時に感じたことは、「ほとんどの人は観客席で議論をしていて、ピッチ(現場)には実はほぼ人は立っていない」という現実でした。以来、SNSで議論をすることの意味はほぼないと感じ、とにかく課題の現場で歩き続けよう。そのことを淡々と発信し続けようと思い、10年が経ったと感じています。

2. 『1人のリーダーが街をかえる』

3月9日の夜は、Clubhouse上で、堀義人さんによる復興支援活動KIBOWにの10年の振り返りに参加していました。

洋野の下苧坪之典さん、山元の岩佐大輝さん、南相馬の和田智行さん、いわきの鈴木賢治さんなど、KIBOWの取組からは、各地の事業リーダーが何人も生まれてきたことを、実感しました。

私からは、「5-6千人の街であれば、たった1人のリーダーがすべてを変えることができる」とコメントしました。各地の皆さんは、事業をつくり雇用を生み出しただけでなく、地域の空気を変えているのだと思います。下苧坪さんは今月6日に北三陸ファクトリーの新工場を竣工。岩佐さんはミガキイチゴを世界に輸出。和田さんは、原発20km圏内の街で100の事業を創造しつつあります。他にも何人もリーダーの顔が浮かびます。たった1人のリーダが地域を、社会を変えてきた。これこそが、この10年間の最大の希望(kibow)だったと思うのです。

3.『孤独に向き合い続けた10年』

孤独孤立担当大臣が設置された流れで、3月6日に公明党の孤独孤立対策本部に呼んで頂きました。

孤独孤立対策では、リスク層に対する「見守り(アウトリーチ)」と、「繫がりづくり(コミュニティ形成)」の2つが必要になります。最近LINE等でのデジタルアウトリーチが広がったり、従来の隣近所づきあいがなくなる中で、こども食堂等の形で新たな居場所づくりが進んでいます。

被災者支援は、孤独対策でもあります。東北では、社会福祉協議会が中心となって被災者への巡回見守りを続け、復興公営住宅ごとに新たなコミュニティ形成を進めています。RCFも釜石や双葉町・大熊町でコミュニティ支援に取り組みました。

「まちの復興」は10年で進みましたが、「ひとの復興」に区切りはありません。被災者の皆さんが抱えている闇に向き合い続けた10年でもあったように思います。

4.『戻れなかった街』

3月8日は、福島県双葉町に行きました。

一年前の3月4日にようやく一部避難解除されたJR双葉駅周辺で、10年前に避難を強いられた街並みを歩きながら、原発事故からの避難や復興について思いを馳せるツアーが企画されています。企画者は、RCFのOBである山根辰洋さん。彼はRCFによる双葉町支援事業に携わったことがきっかけとなり、やはりRCFに所属していた双葉町民の山根光保子さんと結婚し、さらに先月の双葉町町議に立候補し、最年少で当選もしています。まるごと双葉町に関わりながら、街の復興を願って、観光事業を立てようとしています。ダークツーリズムというコンセプトが昔ありましたが、当時は住民の反発があり成り立ちませんでした。10年たち、彼は住民の理解も得ながら、一人その考えを実行に移しつつあります。

10年がたって、唯一町民の帰還を果たせなかったのが双葉町でした。町の帰還が進むのは一年後と想定されています。双葉の復興は、ようやくスタート地点に立ったといっても過言ではありません。

山根さんは、双葉の今を知るツアーを行っています。東京駅から3時間。日帰りでも行けます。ぜひ現地の風を感じていただければと思います。

5.『対立を乗り越えられるのか』

3月8日は、双葉町からの帰りに、ABEMA PRIMEに生出演しました。

前半では、復興予算の課題について。国費100%による過大な復興計画の問題、人口減少を見据えた事前復興の必要性などを伝えました。また被災者のコミュニティ支援がまだまだ必要なのに途切れてしまう危険性や、復興基金のような長期で支える枠組みの必要性も訴えました。

後半の話は、私にとって重いものでした。原発の賠償は、個人向け3兆円強、法人向け6兆円強と、すでに10兆円に近づいています。東京電力が支払いますが、国が貸し付けていたり、全国の電気代値上げで賄ってもいます。ある地域の方は家族で数千万円の賠償をもらっている一方で、自主避難の方は一人あたり十数万円程度に留まります。こうした中で、人と人が対立したり、コミュニケーション不全となっている現実があります。福島において、人の復興を阻んでいる要因となっています。

賠償にとどまらず、帰還するかしないか、中間貯蔵の問題、処理水の問題、甲状腺検査の問題。原発事故は、とかく人と人の対立を生んでいます。番組では賠償金の多さについて疑問が呈されていましたが、私は言葉を発することをためらってしまいました。

10年たっても、人と人の対立が続いている現実があります。この対立を乗り越えることはできないものなのでしょうか。福島の復興にむけて残された大きな宿題です。

次の十年へ

私の人生は東日本大震災で明らかに変わりました。変わっただけでなく、これからも長く付き合っていくことになります。10年。学んだことも多いし、前に進んだこともあります。変わらなかったこともあるし、変えられなかったこともあります。

こうして逡巡しながらも、そして現場に足を運ぶ。そうすることしか、自分にはできないようです。長い旅に付き合ってくれている皆さん、ありがとう。

イベント登壇等

3月11日(木)22〜23時 G1@Clubhouse 「あれから10年(後編)〜社会インパクト投資と今後のビジョン」
3月12日(金) 東北リーダーズカンファレンス https://tohoku-leaders.com/ 
3月14日(日) ふくしま復興を考える県民シンポジウム2021
3月18日(木) 日本生産性本部モーニング・フォーラム
3月21日(日) G1サミット全体会「復興」

『10年で「忘れられる」被災地。復興支援のプロが語る、今必要なもの』(ハフィントンポスト, 3/7)
『データで見る復興予算』(NHK)
『20年で「職業の選択肢』になったNPOを10倍増やすには?』(リクルートワークス研究所, 3/8)
『2021 Jリーグシャレン!アウォーズ開催決定〜3月1日より一般投票も開始します』(Jリーグ、2/25)


編集部より:この記事は、一般社団法人RCF 代表理事、藤沢烈氏の公式note 2021年3月11日の記事を転載しました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は藤沢氏のnoteをご覧ください。