総務省を解体せよ

池田 信夫

東北新社の外資規制をめぐる国会質疑は、常識では考えられないものだった。東北新社は2016年10月の衛星放送事業の申請で、外資比率が(放送法に定める外資規制)20%未満だと申請したが、実際には2017年の有価証券報告書に「外国法人等21.23%」と書かれている。

朝日新聞より

東北新社は翌年8月にこれに気づいて総務省に報告し、子会社にチャンネルを承継して違法状態を解消したというが、総務省は「担当者が東北新社から報告を受けた覚えはない」という。言い分が食い違っているが、東北新社が国会で虚偽の証言をするとは考えられない。

違法状態が解消されても、申請のとき放送法違反だった事実は変わらないので、総務省がそれを認可したのは違法である。今になって総務省は東北新社の放送認可を取り消す方針を決めたが、本来は2017年に取り消すべきだった。これは総務省が過失(違法行為)をとりつくろうため、東北新社の放送法違反をもみ消したのではないか。

幻の「通信放送委員会」

今回のずさんな行政は氷山の一角である。霞ヶ関の常識でも考えられない官民癒着の背景には、マスコミに守られた電波行政の闇がある。これについて山田肇氏もいうように規制部門を「日本版FCC」に分離すべきだという議論は昔からある。

1996年の行政改革会議の中間報告では、郵政省の規制部門を通信放送委員会に分割し、現業部門を郵政公社、産業振興部門を「産業省」に分割する案が出た。

首相官邸サイトより

これに対して郵政省は猛然と反発し、逓信族議員を使って巻き返した。その結果、郵政省が丸ごと自治省・総務庁と合併する「総務省」という意味不明の官庁ができたのだ。自治省と郵政省は業務にまったく共通点がないため、庁舎のフロアも別々で人事交流もほとんどない。

OECD諸国の中で、通信・放送規制の独立行政委員会がないのは日本だけである。1952年までは電波監理委員会があったが、占領統治の終了とともに郵政省に吸収された。

通信・放送を独立行政委員会で規制するのは、放送に政府が介入することを防ぐためだが、日本では政府が番組内容に法的に介入することはまずない。それは総務省が放送局(特に地上波)の電波利権を守るため、反政府的な放送や党派的な放送が行われることがないからだ。

こういうなれあいが腐敗を生み、東北新社のような古い会社の既得権を守り、新規参入を阻害してきた。先進国で衛星放送の番組を政府が審査している国はない。

インターネット中心の制度設計を

いま日本で重要なのは、放送ではなく通信である。特に周波数の割り当てを政府の裁量で行なう電波行政によってテレビ局が過大な帯域を占有し、インターネットの発展を阻害してきた。それは地上波テレビ局の政府に対する影響力が強いためだ。

おまけに新聞とテレビが系列化されているため、マスコミが電波行政を批判しない。それどころか「波取り記者」と呼ばれるロビイストが電波オークションなどの改革をつぶし、日本の電波行政は世界から取り残された。

独立行政委員会ですべての問題が解決するとは思わないが、今のようなズブズブの癒着は断ち切れる。規制部門を公正取引委員会に吸収することも考えられる。規制は公取委のような三条委員会でやることが望ましい。昔は三条委員会にしても出身官庁の空気を読んで独立性がなかったが、原子力規制委員会は(よくも悪くも)空気を読まない。

今回の事件を機に総務省を解体し、行革会議の案を土台にしてインターネット時代にふさわしい通信放送行政の制度設計を考えてはどうだろうか。