出口なき金融政策の泥沼
週明けの東京株式市場は約600円下落し、前週末の約400円安に続く急落です。経済誌が紹介する年末の株価は弱気説が2万5000円、強気説が3万9000円と、真っ二つに割れ、見通しが難しい。
日経新聞は社説「金利高・株安への警戒を怠れない世界」(2/27)を始め、株高への警鐘を鳴らしてきました。「金融バブル崩壊/いつ大暴落が起こってもおかしくない」というタイトルの本(日経出版)も売れています。その予想は狂い、ダウ史上最高値を更新、日本は3万円台の回復です。
それが先週あたりから雲行きがおかしく、また3万円割れです。日本の場合は、日銀がETF(上場投資信託)の購入目標「原則年6兆円」を撤廃したのがきっかけになりました。「新型コロナ不況なのに株価がバブル状態」の疑念への少額回答に応じたのでしょう。
私が懸念するのは、日銀に限らず「世界の中央銀行は株高依存症にかかっているのではないか」です。多くの政権トップは株高の維持を最重要の経済目標にし、株高なら批判されずにすみました。
政治家は「株高依存症」にかかり、株高が続いているかぎり、「経済政策は成功」との評価を受ける。それが錯覚であっても、構わうものかです。この依存症に中央銀行も感染してしまったようです。
政治が中央銀行総裁の人事権を握るようになりました。総裁はバブル状態との認識を持っていても、バブルにブレーキをかけない、かけられない。バブルの崩壊は経済的惨事になりますから、「バブルは殺さぬよう」の金融政策を続けてきました。
あるいは財政金融政策の効果が減退し、バブルによる「ほろ酔い効果」に密かにかけてきたのかもしれない。「ほろ酔い」から本格的な「酩酊状態」に。バブル中毒です。
日銀は政治に従属し、政権と一体化した「政府機関」になりました。デフレ脱却、リーマン危機への対策と称し、超金融緩和では世界のトップを走り続けてきました。ゼロ金利、実質的な日銀引き受けにより、国債発行に歯止めがかからない。その結果、先進国最悪の財政状態です。
おまけに、株価維持と資金供給のために、日銀が買い続けたETF(上場投信)の保有残高は50兆円に達し、東証の時価総額の7%、日本最大の大株主になりました。国債の保有比率も45%という異常さです。日本は資本主義国でなく、国家資本主義国です。そんな国は他にない。
異常な姿も、株価が30年ぶりに3万円台に回復し、免責にされてきたきらいがあります。日本の場合は極端でしょう。他国はというと、新型コロナに対する不況対策で、やはり通貨をばらまいています。
おカネは巡り巡って、マネー市場に行きつき、バブルを生む原因になっています。それにもかかわらず日米欧の中央銀行は、苦し紛れなのか金融緩和の継続を表明しています。「ゼロ金利政策を23年末まで続ける」(米)、「良好な金融環境を守ることが必要だ」(欧)などです。
もっとも経済構造が複雑化しているため「バブルではない」との反論も聞かれます。日経は「経済教室」欄で「実体経済との乖離は限定的」(19日/伊藤隆俊コロンビア大教授)、「現行政策は妥当で懸念及ばず」(22日/ハーバード大シェアバード氏)の主張を紹介しました。
これらの論文で気になったのは「経済が過熱して物価が上向いたら金融財政政策も引き締めることが可能だ」(シェアード氏)です。コロナ危機の前、パウェルFRB議長が引き締めに転じようとして、トランプ大統領が猛反対し、尻すぼみに終わりました。今や政治上位の時代です。
「今まで以上に中銀による市場との丁寧は対話が求められる」(伊藤氏)もどうなのでしょうか。黒田総裁は、市場にサプライズを与えて、政策効果を高めることに必死でした。サプライズとは市場の出し抜くことで、対話と正反対の位置にある。それを思い起こしてほしい。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2021年3月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。