ブリンケン米国務長官が香港への優遇停止を示唆

ブリンケン米国務長官は31日、「2021年香港政策法報告書」を議会に提出した。報告書は、中国が対象期間に中英共同宣言と香港基本法に違反し、香港の高度な自治を解体したとし、97年7月から米国が香港に対して適用して来た「優遇扱いを許すことはない」と認定した。

Wikipediaより

報告書は邦訳で約12万字、対象期間は20年6月から21年2月なので、前トランプ政権がまとめたことが窺える。小見出しは以下の22項目だ。

-概要、国家安全保障法、法の支配への影響、逮捕・保釈・調査手続、民主的制度への影響、普通選挙に向けた進展と議会への影響、司法への影響、集会の自由への影響、言論と結社の自由への影響、報道の自由への影響、偽情報・悪意のある政治的影響活動、インターネットの自由への影響、移動の自由への影響、信教の自由または信念への影響、米国市民への影響、学者や交流への影響、残りの自律性の領域、米国と香港の協力と協定、輸出管理、制裁措置の実施、米国の制裁、香港政策法の調査結果-

本稿では、ここ2年間の香港の状況と米国の制裁法を振り返り、バイデン政権と米国議会が、どこまでの「優遇扱いの停止」に踏み込むべきかを考えてみたい。

14年の雨傘デモ以降は小康していた香港のデモだが、「逃亡犯条例改正」を巡り19年春に再燃、8月には200万人の規模にまでなった。林鄭香港行政長官は10月に改正案を撤回したが、市民は「5大要求」貫徹を掲げてデモを継続した。

11月に行われた香港区議会選では、全要求の実現を訴えた民主派が85%の議席を得て圧勝した。米国議会はこれらの大規模デモ受け、同じ11月末「香港人権・民主主義法」(人権法)を超党派の全会一致で可決した。

しかし、北京を後ろ盾にした林鄭はむしろ姿勢を強め、20年正月の衝突では数百名を逮捕した。そして20年5月末、中国全人代で香港国家安全法(国安法)が成立、翌月に施行された。これにトランプは「中国は香港の自治を奪った」と批判、香港への優遇措置の停止を示唆した。

西側各国も中国と香港政府を非難し、香港市民へ支援(移民受け入れなど)を申し出たが、中国は意に介さず一国二制度の破壊を強行する。香港民主派は9月の立法会選挙に向けて、野党乱立を防ぐべく統一候補の予備選を6月に実施、60万人が投票した。

これに動揺した北京と林鄭は、コロナ禍を理由に立法会選挙を延期し、黄之鋒ら民主派候補予定者12人の立候補資格と現役民主派議員4人の議員資格を剥奪した。11月にはこれに抗議した民主派議員15人全員が一斉に辞職した。

明けて21年1月、香港警察は辞職した民主派議員や統一候補選挙に関係した50名余りを拘束、2月に47人を国安法に基づく国家転覆容疑で逮捕した。その間、周庭や香港メディア界の大物黎智英も拘束され、黎智英にはブリンケン声明の翌4月1日に有罪判決が出た。

政策法は97年の香港返還に設けた国内法(79年の中国承認時の台湾関係法に似る)で、一国二制度が守られる前提の下、中国返還後も米国が香港との通商や投資に関して優遇を認めるという米国の措置を示した。主な項目を挙げれば以下のようだ。

  • 国際金融センターとしての香港の役割支援し、双方に有益となる関係を維持
  • 多国間会議や協定・組織への香港の参加を支援
  • 香港を独立した関税地域および WTO加盟地区として尊重
  • 二国間の経済協定締結にむけ香港との直接交渉を継続
  • 米国ドルと香港ドルの自由両替の継続
  • 米国商船の香港の港への自由停泊を認める
  • 商用・観光・教育研究目的等での香港市民の非移民ビザでの米国訪問を奨励
  • 大統領判断による香港の自治状況次第での法が定める規定の適用を一時停止または再開

14年の雨傘デモや翌年の書店主失踪事件に対しても、米国は政策法を使わず見直しを模索した。人権法はその見直しだ。そこでは改めて「北京に香港の高度な自治の保証」を求め、「米国務長官に対し、最低年に1度、香港への優遇措置継続を判断する報告書の議会への提出」を義務付けた。

米国は20年7月、国安法に対抗して「香港自治法」(自治法)を成立させ、「香港の正常化に関する大統領令13936号」も発令した。自治法は、当局者に対する金融制裁だけでなく、対象者と「著しい取引」がある企業や金融機関に対しても二次制裁をかける、「痛いところを突く」内容だ。

自治法では、制裁対象の金融機関に対する禁止項目として、米金融機関からの融資、プライマリーディーラーの認定、米政府の代行業務、米管轄下での外国為替取引、米管轄下での資金決済取引などの10項目を挙げ、大統領はこれらを発動する権限を持つ。

これが発動された場合、例えば中国の大手銀行は実質的に米ドルの取引ができなくなり、国際金融市場から締め出される。またこれらの銀行と取引のある中国企業も米ドル建ての決済ができなくなり、貿易取引や資本取引に深刻な影響が出るとされる。

制裁対象が、香港ドルを発行している香港上海銀行などに及べば、米ドルとの交換保証で成立している香港のカレンシー・ボード制度が崩壊する可能性もある(カレンシー・ボード制度とは、自国通貨を特定の外国通貨に一定の公定平価で完全に兌換することを保証する為替相場制度)。

そうなれば、致命傷を負う香港・中国のみならず米国や国際社会にも大きな影響は必至だ。だからこそ習近平は、米国がそこまで踏み切れないことを見透かしている。

ブリンケンは今回の声明で、3月16日に24人を制裁したことに触れ、「中国の悪質な政策や行動に反対する香港の人々と立ち向かうために、議会や世界中の同盟国やパートナーと協力し続けることを約束する」と述べた。しかし、「言うだけ」では困る。

米国民の75%以上は党派を超えて「中国との経済関係が悪化しても、中国における人権を促進するべき」と考えている。その中国の人権蹂躙や覇権主義は共産党一党独裁の体制に根差している。これを抑えられるのは先ずは米国だ。そして国際社会も米国民と同じ決意の下で団結する。

米議会は報告書を容れ、バイデンに「米国ドルと香港ドルの自由両替の継続」の優遇措置の停止を求めて欲しい。そして国際社会も中国とのデカップリングに向けサプライチェーンの再構築を促進する。その先にこそ共産中国の崩壊が見える。これを置いて日米首脳会談で話すべき何があろうか。

その暁に台湾と香港、新疆ウイグル・内モンゴル・チベットの各自治区は独立できる。すでに台湾と香港は国家の要件を備えている。新疆ウイグルには新彊綿やレアアースがある。内モンゴルはモンゴルとの一体化を図れば良く、チベットにはダライ・ラマの在インド亡命政権が戻るはずだ。

その結果、戦後の台湾に流入した外省人のごとく香港やこれら自治区に移住した多数の漢族は、移住先の人々の自決とアイデンティティーの覚醒によって苦境に陥るかも知れぬ。しかし、台湾を見れば、時を経て民主主義が根付くにつれ解決する問題だ。斯くして国際社会は高枕で眠ることができる。