ジョージア州と言えば、2021年の上院特別選挙で2人の共和党議員現職が民主党候補に敗北し、上院の多数派を民主党に明け渡し、皆さんの記憶に刻まれているかと存じます。
何より、2020年の米大統領選ではアリゾナ州と並び、共和党地盤の州にも関わらず民主党のバイデン候補を選出していましたよね。ちなみにジョージア州が民主党大統領候補を選出したのは1992年以来、アリゾナ州は1996年以来で初めてです。
振り返れば、コロナ禍において郵便投票を含む期日前投票の割合は上院特別選挙で40.6%、2020年の米大統領選で57.3%と記録的でした。ジョージア州議会で多数派を占める共和党は期日前投票の規制の甘さが大勢に影響したと捉え、選挙法の改正に踏み切り、同党のケンプ州知事が3月25日に署名した格好です。何より、ケンプ知事は2022年の知事選を控え、再選するための地固めに迫られたのでしょう。主な改正のポイントは以下の通り。
・期日前投票に、写真付きのIDが必要(約20万人が運転免許証、あるいはID番号を所持せず)
・決戦投票の期日前投票期間は、従来の3週間から1週間へ短縮
・決戦投票は通常選挙後の4週間後に実施、従来の約2ヵ月から短縮
・郵便投票の申請開始は選挙11週前、従来の180日前から短縮
・州務長官の権利を選挙管理委員会に移し、州議員が選挙管理委員会を任命
・投票箱の設置数を削減
・投票書に並ぶ有権者に、ボランティア団体などが水や食料品などを配布する行為を禁止
その結果、黒人を始めマイノリティが猛反発し、地元の大手企業であるコカコーラやデルタ航空、UPS、ホームデポを始め、同州に本拠地を置かないJPモルガン・チェースやマイクロソフトなども抗議声明を発表しましたよね。
特に世間の注目を集めたのは、メジャーリーグの行動です。7月13日のオールスター戦、並びにオールスターウィークの一環として行う予定だったドラフトの開催地をジョージア州アトランタから変更すると決断したのですから。なお、シューマ―上院院内総務は、NY市を候補地にしようと意気込みをみせています。
画像:舞台となるはずだったアトランタ・ブレーブスの本拠地トゥルイスト・パーク。サントラスト・バンクがBB&Tと合併しトゥルイスト・フィナンシャルに社名変更したため、2017年からサントラスト・パークからこの名称に。
米国民だけでなく大企業もジョージア州の選挙法改正に憤っているようにみえますが、CNNは企業による抗議について「大企業は圧力を受け、遅ればせながら対応した(Corporate giants bow to pressure in Georgia voting law backlash)」と報道していました。誰が企業に圧力を掛けたかというと、CNNは民主党や市民団体と指摘。そこえ、バイデン大統領も「21世紀のジム・クロウ法(19世紀末から1960年代にかけ南部の州で存在した人種差別を含む州法の相称)」と非難したならば、当初は様子見だった企業が、政権や市民の意向を受け対応せざるを得なかったと考えられます。そのせいか、批判はしても具体的な対応は明示していません。
またジョージア州といえば、2017年から2020年の人口増加は2.8%増と全米12位であり、近年人口が流入超過が確認される州のひとつ。人口は約1,070万人で全米8位、州のGDPも2019年で約5,450億ドルと全米10位ですから、国内企業も無視できない存在と言えるでしょう。
ジョージア州経済にしてみれば、メジャーリーグのオールスター開催地変更は痛手となること必至です。しかし、2016年にNBAがLGBT差別禁止を無効化した州法に抗議し、開催地をノースカロライナ州シャーロットから変更した前例を踏まえれば経済の落ち込みにつながるとも考えづらい。もちろん、当時は景気拡大期だったという背景もありますが、ノースカロライナ州の成長率は2019年まで右肩上がりでした。
ちなみに、トランプ大統領は一連の企業に対しボイコットを呼び掛けてましたね。トランプ氏は1日にダイエットコークを12缶も空けると言われていましたが、ペプシやドクターペッパーに転向する決断したのか見届けたい気がします。
ジョージア州の選挙法改正をめぐっては、市民団体が提訴して最高裁にもつれ込む可能性を残します。最高裁判事9名のうち、ロバーツ長官がリベラル派に与しても保守派が優勢の状況。果たして、最終的に判事の思想に沿った結果となるのでしょうか。
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2021年4月5日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。