米上院外交委員会は8日、中国に対抗するための超党派による「2021戦略的競争法」を公表し、14日に審議するとした。訪米を控えた菅総理も急ぎ精査しているだろうと思うので、本稿もそのおおよその中身を追ってみたい。
同法はPDFで283頁、頁数こそA4で28枚約39,000字の小室文書の10倍だが、目次を設けて章立てされ、頁当たりの文字数が少ない上、本文より長い脚注もないので、Wordに落としAI翻訳すれば容易に読める。但し、法案文書は一行ずつナンバリングしてあり、Word化には難があるが。
章立ては、冒頭に「中国に関する問題に対処するため、米国上院でメネンデスが次の法案を提出した」とあり、「決議(BILL)」の第1章(a)略称-この法律は「2021年の戦略的競争法」として引用される場合がある、(b)目次-この法律の目次は次の通り、と続く。
第2章「結論」以下は、第3章「定義」、第4章「政策の声明」、第5章「議会の見解」、第6章「構成ルール」となっていて、第6章以降にはタイトル(表題)が次のⅠ~Ⅴまである。
すなわち、I-競争力のある未来への投資、II-アライアンスとパートナーシップへの投資、III-我々の価値観への投資(3項)、IV-経済的国政術への投資(7項)、V-戦略的安全保障の確保(3項)で、それぞれにサブタイトルとパート、その下にセクション(項)がある。
サブタイトルはタイトルⅠとタイトルⅡだけにあり、Ⅰのサブタイトルは、A-科学と技術(1項)、B-グローバルインフラストラクチャ開発(6項)、C-デジタルテクノロジーと接続性(2項)、D-中国共産党の影響に対抗する(8項)の4件。
IIのサブは、A-戦略的および外交的事項(17項)、B-国際安全保障問題(15項)、C-中国に対抗するための地域戦略(1項)で、Cには地域別のパートI-西半球(12項)、II-大西洋両岸同盟(4項)、III-南アジア・中央アジア(2項)、IV-アフリカ(6項)、V-中東・北アフリカ(2項)、VI-北極圏(1項)、VII-オセアニア(2項)がある。
第2章「結論」は25項目あり、その(1)は、中国は、政治、外交、経済、軍事、技術、イデオロギーを用い、米国とほぼ同等の戦略的でグローバルな競争相手になりつつあり、これら分野で中国が追求する政策は、米国、パートナーや世界の他の多くの地域の利益と価値観に反しているとする。
台湾には(19)で言及され、中国はあらゆる手段を通じて台湾統一を強制的に求めており、習は19年1月、中国は「必要なあらゆるオプションを留保し、武力の行使を放棄することを約束しない」と語ったとし、第一列島線における台湾の支配的な戦略的地位を活用し、第二列島線以降に勢力を伸ばそうとしていると述べる。
(20)では南シナ海に触れ、中国は、航行と交易の自由な流れを脅かし、環境を棄損して、PLAの戦力投入力を強め、他の権利主張者を強要・脅迫する違法な建設を行ったとし、習は15年9月、南シナ海を軍事化していないと述べたのに、17年の第19回党大会で「南シナ海の島々とサンゴ礁における建設は着実に進展している」と発表した、と難じている。
インド太平洋における安全保障の強化については、タイトルIIのサブAの2項とサブB国際安全保障問題の9項と多くを割いている。他方、北朝鮮の言及は15項の内、対北国連制裁の普遍的な実施に関する政策声明の1項のみで、北に対する関心は余り高くない。
香港とウイグルは、タイトルIII-私たちの価値観への投資の項で、香港での民主主義の促進のための予算承認、新疆ウイグル自治区での強制労働に関連する制裁、新疆ウイグル自治区での組織的レイプ、強制流産、強制不妊手術や非自発的避妊に関する制裁に詳しく言及している。
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では肝心な「どうする」の部分、すなわち第4章「政策の声明」はどうか。「目的」は「中国との戦略的競争を追求する上で、以下の目的の追求が米国の政策である」とし、以下の20項目を列挙する。
1.は「米国の世界的な指導的役割は維持されており、その政治システムと国力の主要な基盤は、中国との長期的な政治的、経済的、技術的、軍事的競争に向けて準備されている」と述べる。だから安心して欲しい、と、脛に傷のあるバイデンが弁面しているかのようだ。
2.では「インド太平洋の勢力は引き続き米国と同盟国に有利」とし、3.4.で同盟国・パートナーの連携の優位性を述べ、5.6.では米国が、主権、法の支配、個人の自由、人権などを原則とした自由で開かれた国際秩序を主導し、維持しているとする。2.5.6.はトランプ政権の成果だ。
7.では「米国が中国共産党に行わせないと請け合う(assure)」事項として、開かれた民主的な社会を破壊すること、グローバル市場を歪めること、国際貿易システムを操作すること、経済的軍事的手段を介して他国を強制し、または技術的利点を利用して個人の自由または他国のセキュリティ上の利益を損なうことを挙げている。
8.9.では、米国は中国との軍事的対立を阻止し、両国は紛争のリスクを減らすために取り組むとするが、少々妥協的で元豪州首相ラッド氏の論考*を想起させる。具体的には、米中の経済関係で公正で健全な競争を追求するべく、中国による不公正で違法な商慣行・取引慣行や米国企業の強制に対して米国経済を強化する政策を推進するという。
また、中国が米国の経済競争力を害そうとする試みを防ぐため、米国の法律や規制を必要に応じ強化するとし、自由で相互の貿易と開かれた統合された市場を促進する国際的な規則と規範の進歩を主導し、公正な競争を求めるパートナーの米国企業および企業を支援するために活発な商業外交を実施すると述べる。前段は必要と判断したトランプが取り組んだ。むしろそれが緩まないか懸念がある。
10.では、米国がどの様に、次世代電気通信、AI、量子コンピューティング、半導体、バイオなど技術革新を確実にリードするかに触れ、11.~13.では民間、市民社会、大学他の学術機関、州と地方の立法者らが、CCPの影響リスクを特定し、警戒を怠らないようにすると述べる。が、ここもバイデン政権は前政権から後退していまいか。
14.は、国連と関連機関やその他の多国間組織で効果的な主導権を発揮し、自由主義的でなく権威主義的国家による委員の選出からこれらの組織の完全性を擁護すると述べる。が、このトランプ流の逆を行く手法が果たして功を奏するか疑問がある。
15.では、中国との関係では自由と人権の擁護を優先するとし、16.でそのための同盟国やパートナーとの協力を述べる。17.は、他国の政治的・戦略的な目標に対する経済的利益と敬意を不公正にすべく中国が用いる汚職、抑圧、強制その他の悪意のある行動を暴露するという。これは効きそうだ。
18.は米国が西太平洋へのアクセスをどう維持するかで、インド太平洋地域へ前方展開部隊の増加、米軍の近代化、同盟国やパートナーとの演習強化、PLAの強制能力を低下させ、特に台湾海峡、東シナ海、南シナ海で外洋と空路を維持するとする。これも頑張って欲しい。
19.は、中国抑止のため同盟国やパートナーと統合し、第1または第2列島線での中国の勝利理論を打ち負かすとし、先ず「武力紛争のレベルより下のグレーゾーン戦術」を使い、次に「武力紛争」に進むとしている。
が、20.では「望ましくない紛争リスクの軽減」のため、米中の軍と軍のコミュニケーションを強化し、紛争を解消する拡大回避手順を改善し、高レベルの訪問や文民と軍の役人間の繰り返しの交換、その他の措置を行うとし、21.では必要に応じて二国間または多国間手段を通じ、また国連も含めて、利益が一致する場合、中国と協力すると述べる。
以上だが、概して妥協的で習に付け入られる懸念を覚える。中国が国際社会の脅威である元凶は共産党一党独裁にあり、この崩壊なくして世界の安寧はない。北京五輪ボイコットと台湾電撃承認は、その序章として習への痛打となる。本法案も良いが、菅総理にはバイデンにこの二策を持ち掛けてもらいたい。