コロナ禍という未曽有の事態を経て、NY市長選が11月2日に開票されます。その前に6月22日の予備選を控え、経済活動の再開もあってNY市に熱気が戻ってきました。
現職のデブラシオNY市長は4年2期の任期満了を迎えるため、民主党は新人が乱立しています。ここで頭一つ抜け話題を集めているのが、2020年大統領民主党予備選を戦った、企業家で台湾系のアンドリュー・ヤン氏。仮に市長に選出されれば、アジア系として初めてとなります。最新の世論調査結果では、以下の通りとなりました。
1位 アンドリュー・ヤン(企業家)、55%
2位 スコット・スティンガー(NY市の会計監査官) 42%
3位 エリック・アダムズ(ブルックリン区長) 39%
4位 ショーン・ドノバン(オバマ政権時のOMB局長) 27%
5位 マヤ・ワイリー(ニュースクール教授) 26%
ヤン氏と言えば、20年の大統領選民主党予備選でもベーシック・インカムとして18歳以上に1,000ドル支給すると唱え、若者、特に男性の支持を集めました。彼らはヤン氏の名前をもじって、“ヤング・ガン”と呼ばれていましたよね。今回もヤン氏の選挙公約の目玉はベーシック・インカムで、50万人の貧困層に毎年2,000ドル支給する案を掲げます。予備選後、CNNの政治コメンテーターとしてお茶の間の顔となっていたため、さらに知名度を広げたに違いなく、世論調査に影響したことでしょう。アジア系が多いというNY市の特徴も、ヤン氏にはプラスとなってるに違いありません。
何よりヤン氏の追い風は、選挙制度の変更です。今回の市長選から、ランクド・チョイス・ヴォーティング(RCV、即時決選投票制)を採用されるため、世論調査は極めて重要となっているのですよ。RCVの投票の仕組みは以下の通りで、選挙版はないちもんめと言った趣があります。
① 有権者は1人の候補に投票するのではなく、自身の好みに従い候補者に優先順位をつけて複数投票する。例えば、A~Eの5人の候補がいた場合、1位はA候補、2位はB候補、3位はC候補、4位はD候補、5位はE候補と順位付けする。
② 開票時に1番に選ばれた候補者が全体の50%以上、あるいは規定の水準を到達すれば、その候補が勝者に。
③ しかし、どの候補者も1位として過半数を獲得できなければ、1位の得票数が最下位だった候補者の敗北が決定。例えば、上述のA~E候補のうちE候補が1位の得票数が最下位とすれば、E候補は脱落となる。
④ E候補を1位とした有権者の票は廃棄されず、2位となった候補者にそれぞれ再分配され、過半数あるいは一定の水準の満たすまでこれを繰り返していく。
RCVの利点は、規定水準を満たす投票者がいなくとも1回で済ませられ、決戦投票を回避できること。年初に行われたジョージア州の決戦投票と違って、時間と費用の節約になりますよね。米国内では2000年代から導入を決定する地方政府が増え、今では30都市以上に及び、メイン州では州として2018年に連邦議会選挙で初めて採用、20年の大統領選も対象としました。海外では、オーストラリアやニュージーランドで使われています。
NY市の場合、支持率の1位から5位の候補者に順位をつけて投票します。足元の世論調査結果を受け、NY地元放送局は即時決戦投票制を活用して勝者を試算し、ヤン氏VSとスティンガー氏の戦いになると予想していました。
問題は、この投票方式の認知度です。ニューヨーカーの40%が「知らない」と回答し、黒人に至っては48%に及びました。ヤン氏は本方式を支持していましたが、無効票の増加や投票時間に係る時間や待ち時間の長さなど問題視されかねません。NY市の11月と言えば、コートが必要な場合もありますから、後に禍根を残しそうな気もします。
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2021年4月20日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。