やはり“世田谷モデル”は竹ヤリ以下だった

稗島 進

東京、大阪に緊急事態宣言が発出され、新型コロナによる国内の死者数が1万人を超えた。インド型の変異ウイルスの感染者も確認され、ウイルスの猛威は収まらない。このまま東京オリンピックを開催できるのか、世論の大勢は疑問を抱いている。

このような中、都内最大の人口を擁する世田谷区の新型コロナの感染者数は累計9693人、死者は82人に上る(以下、断りない数字はすべて4月18日現在)。そういえば、世田谷区は保坂区長の魂を込めた“世田谷モデル”なるものが実施されてからはや半年が経過したが、一体全体どうなっているのだろうか。

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区が発表した最新の報告書を見ると、”世田谷モデル”が対象としている高齢者福祉施設、障害者施設、学校などの感染発生件数は、564件。前回報告(令和2年1月31日現在)の425件から139件増加している。初回報告(同12月23日現在)は242件だったので、感染者は増え続けていることになる。“世田谷モデル”を大騒ぎして実施している割には、その目的である「感染拡大の防止」には、何も役立っていない。それどころか、クラスター発生についても、社会福祉施設だけに限ってみても、30→47→62件と増加しており、何のために8億円もの血税を投入しているのか、まったくもって理解不能だ。

議会において、私の会派(無所属・世田谷行革110番・維新)は、現在行われている1ヵ月~数ヵ月に1回という“やってる感”を出すだけのPCR検査ではなく、少なくとも1~2週間に1回くらい実施するような、つまり頻度を上げて行わなければ、強敵に竹ヤリで立ち向かうようなものであり、意味をなさないと主張してきた。区はそれを認める答弁をしているのだが、いかんせん、“世田谷モデル”という枠組みに凝り固まっているので、臨機応変の対応はまったく出来ないままなのである。

世田谷区には、保坂区長を本部長とする「新型コロナ対策本部会議」というものが設置されており、ここで4月14日に行われた「有識者との意見交換会」における議事録を入手した。A4版で40ページに及ぶものだが、この中でそれを裏付けるようなやり取りがあるので、そのまま抜粋する。

西原広史・慶応大学教授 (前略)例えば、1つの施設が月に1回検査をするというときには、その月に1回全員が同じ日にやられているのか、それとも、例えば4グループぐらいに分けて毎週グループ1から4が順番にやっていくというような形でやられているのか。もし、その施設全体でのモニタリングというような意味合いだと、4グループに分けて毎週やっていくほうが、その施設の中でのクラスター発生を効率よく抑えられるんじゃないかなというふうに私個人的には思っておりまして、その辺はいかがでしょうか。

有馬保健福祉政部次長 残念ながら定期的に頻繁にやっている施設がなかなかないんですが、今、西原先生がおっしゃられたような、例えば1つの施設で4グループに分けてやっているというお話はちょっとないです。やったとしても、やはりある月のある日に大量の方々が月1回やるというような形でやっております。

西原教授 もしそういうことで御協力いただける施設があれば、例えば4グループに分けて、本人からすれば月に1回かもしれませんけれども、施設としては毎週誰かが必ずその施設で検査をしているという状態だと、そうしたクラスターの発生を効率よく防げるかなと思いますので、もし御検討いただければと思いまして発言いたしました。

こうした有益な提言は、いろいろな方面から行われているのだが、残念ながら区は素直に採用しようとしない。「区民の命を守る」という至上命題を抱えていながら、なんのかんのと理屈をつけて、効力のない施策を続けるとすれば、決して許されるものではない。様々なデータから“世田谷モデル”は感染拡大の防止について、竹ヤリ以下の武器にしかなっていないことは明白である。私たちの会派は反対したが、議会の総意としては血税の投入が承認された以上、他者からのアドバイスを積極的に受け入れ、竹ヤリからのバージョンアップを望みたい。