バイデン演説をどう読むか

バイデン大統領が就任100日を4月30日に迎える2日前の28日、極めて遅い施政方針演説を行いました。遅くしたのは緻密な戦略があったからと思われます。一つはトランプ支持派による議事堂襲撃事件からなるべく時間を空け、反バイデン派の熱さましをすること、コロナ対策を急ぎ、自身の施政方針演説の華とすること、対中国に関して同盟国との連携確認を行い確実な言質を取っておくといった演説のための準備期間だったと思います。

NHKより

逆に言えばバイデン大統領の弱さとの裏腹でもあります。様々な批判、例えば年齢からくる執行能力は今後、ますます高まっていくでしょう。その中で昨日の演説では言い間違えもなく、原稿にもほとんど目を落とすことなく、極めてスマートにかつ老練の政治家としてのうまさがあったことは確かです。ただその先をみるとどうでしょうか?

同じ28日、アメリカの連邦準備理事会は定例の政策会議を行い、眠くなるような会合結果を発表しています。つまり以前と何も変わらず、よって何もしない、であります。ところが市場はそうとっていません。アメリカの株価はそろそろピークアウトするのではないか、という見方で4-6月期が最後の華ではないかとするものです。理由は市場が既に経済回復分を先取りし株価に織り込んでしまっています。株価は結果よりも将来見込みに対して反応するという傾向が最近、強まっています。更に物価は一時的上昇とは思い難い上がり具合です。金融当局としては相当難しいかじ取りが待っています。

一方、バイデン氏の施政方針演説からは極めて強い増税案、特に富裕層への締め付けを明白に打ち出しました。国内だけ見ればこれはこれでワークしないわけでもないのですが、富裕層が支える海外からの直接的、間接的な資金流入の後押しを忘れてしまっています。ウォール街を悪役視しているのですが、ウォール街は海外からの資金を引っ張り込む重要な役割を担っているのを過小評価しているのです。これではアメリカが経済水準を維持し、世界の頭脳として君臨するには迫力に欠ける気がします。つまり普通の国になってしまうということです。

次にバラマキ予算。経済復興が日に日に進む中で経営者からは人材募集をしても人が集まらないとの嘆きが出てきています。政府からの「お小遣いとお年玉」を十分もらっているのであとは株で稼げばよいという堕落者が増えています。それなのにバイデン大統領は中間層の活躍を期待すると強く述べているのは全く理にかなっていません。中間層を奮い起こすには食えないほどぎりぎりに追い込まれたときです。アメリカの産業復活はあるのか、私には疑問符がつきます。

施政方針演説で外交の話題が薄かったのも気になります。対中国問題については触れていますが、イランと北朝鮮については話の中で国の名前が出ただけです。ましてや中東については一切触れていません。ご承知の通り、イスラエルとイランの関係が緊迫しています。双方報復合戦をしている状態ですが、イランはアメリカによる締め付けが緩んだことを良しとしていること、一方のイスラエルはトランプ政権と比し、強い支援が得られないことから自国での直接的活動に切り替えています。産油国はかつてほどの経済パワーがなく、中東諸国は一枚岩ではありません。その間、トルコが虎視眈々とその隙間を縫うように影響力を発揮してきています。つまり動きがバラバラで統制が取れなくなっています。

バイデン氏は明らかに外遊に出ない様にしています。就任後初の渡航は6月11日の英国でのG7および、14日のベルギーにおけるNATO会議に出席するのみしか予定に上がっていません。ブリンケン国務長官が動いているとしてもアメリカのアピアランスという意味では迫力不足。そして副大統領のカラマハリス氏は移民政策担当とずいぶん遠慮がちなポジションであることも気になります。

結局、民主党はやや人材不足の感があります。党内力学が複雑でバイデン氏は長老として全体を抑えるものの案外、玉不足という気もしないでもありません。

個人的にはニュースでの比較的前向き評価と比してやや不安視せざるを得ないとみています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年4月30日の記事より転載させていただきました。