企業の事業活動においては、キャッシュのインフローもアウトフローも大きく変動し得るので、ネットキャッシュフローがマイナスになることは少しも珍しくないが、それは一時的な現象であって、企業として存続する限りは、平準化されたネットキャッシュフローがマイナスになることは想定されておらず、逆に、将来に向かってネットキャッシュフローがマイナスになることが予想された段階で、企業としての生命は終わるわけである。
一時的なネットキャッシュフローのマイナスでも、そこで手元流動性が枯渇すれば、事業の継続は不可能となる。故に、ネットキャッシュフローは、経営の裁量において、適当な額が内部留保されて蓄積され、一時的なキャッシュフローの逆転に対する備えとして、また、成長戦略における設備投資等のために使われる。
留保されないネットキャッシュフローは、債権者を含めた広義の投資家に分配される。そこで、企業の営む事業に投資するには、事業が生み出すキャッシュフローの分配を受け取る権利について、優先劣後関係が作られている。株式、社債、融資という投資対象の名称は、その優先劣後関係を示すものである。
株式は最も劣後した権利であって、上位にある融資と社債等への価値を守るべく、ネットキャッシュフローの変動リスクを吸収している。同時に、事業の成長を支えるものとして、上位の融資と社債等へ利息等が支払われた後の残余を独占することで、事業価値成長の恩恵を受けるものなのである。
成長しなくとも、ネットキャッシュフローがある限り、株式には投資価値がある。実際、世界に無数にある非公開企業の多くは、経営と株式所有が一体化したもので、株式は投資対象というよりも、家計と一体化したものとして、成長とは無関係に価値をもつ。
しかし、株式を上場している企業の場合は、そもそもの上場の目的からして、成長を志向しないわけにはいかない。ネットキャッシュフローの持続的成長への参画、これこそが株式投資の本質である。そして、その成長にかかわる不確実性こそ、株式投資の本源的リスクテイクの対象である。
森本 紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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