FDAが認可した100種類のモノクローナル抗体薬:日本はどうする

少し前になるが、5月5日のNature reviews drug discoveryに「FDA approves 100th monoclonal antibody」というタイトルのnewsが掲載されていた。モノクローナル抗体が初めて米国FDAから承認を得たのは1986年のことだ。抗体のターゲットとなった分子はCD3と呼ばれているT細胞の目印となっている分子だ。骨髄移植前に患者自身のT細胞を取り除くために利用されている。

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それ以降、2015年までの約30年間に50種類のモノクローナル抗体薬が承認された。わずか6年後の2021年4月、100番目のモノクローナル抗体薬が承認された。もちろん、標的となる分子が100種類ではなく、PD-1/PD-L1に対する免疫チェックポイント抗体が7種類、CD20に対する抗体医薬が6種類、TNF・HER2・CGRP/CGRPR・VEGF/VEGFR・IL-6/IL-6Rに対するものがそれぞれ4種類となっている。100種類のうち、41種類が腫瘍領域である。

免疫チェックポイント分子、乳がん・胃がんのHER2、血管新生分子VEGF/VEGFR、肺がんや大腸がんのEFGRなどに対する抗体などがん治療に欠かせないものとなっている。2019年度の医薬品売上全体に占める抗体医薬の割合は増えており、9品目が5000億円以上の売り上げがある。最も多く販売されている抗体医薬品は関節炎やクローン病などの自己免疫疾患に対するアダリムマブ(抗TNF抗体)で約2兆円も販売されている。これに続くのが、抗PD-1 抗体で、2品目合わせて約2兆円となっている。これらに次ぐのが抗VEGF抗体のベバシズマブで約8000億円となっている。

日本はこの分野で決定的に遅れてしまった。20世紀の終わりから21世紀にかけて、医薬品を見つける方法にパラダイムシフトが起こった。まず、標的分子を見つけて、それに対する低分子化合物や抗体医薬品を探す方法に変わったが、それに追いつけていけなかった。デジタル分野も遅れ、自動車も電気自動車の時代となり、テスラは時価総額でトヨタを追い越した。

日本に残された道は、医療分野でのAI/ロボットと日本全体に提供されている医療の質を活用した方法しかない。すなわち、AIホスピタルだ。年間1兆円程度を投資して、10年後の100兆円産業を育てるしかないと思う。このコロナ感染症で背負ったダメージを回復するために、この程度の覚悟は必要だ。


編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2021年4月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。